1.同期の入院

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1.同期の入院

 同期の田所が昨夜救急車で運ばれて入院したと部長から朝礼で言われた時、俺は上手く脳内変換できなかった。 「しばらく田所さんはいませんが、その分僕達でカバーしましょう。じゃ、今日もよろしく」  よぉしくお願いシャース、と口々に言い合い、朝礼は終わった。田所が、入院。何が何だか分からない。俺は働かない頭で部長の前に歩を進めて訊ねた。 「部長、田所のヤツ、大丈夫なんですか。救急車で運ばれて入院って……」 「ああ、本人は大丈夫だと言ってたよ。明日手術するからしばらく入院しなきゃいけないって、心苦しそうだったけど」 「え、手術!?」  予想外の言葉に思わず声を上げてしまった。周りの同僚たちも「どうした?」とチラチラ見てくる。俺はトーンダウンさせた。 「そんなに悪いんですか。昨日別れ際はピンピンしてたのに……」 「まぁ、人間いつどこで倒れるかなんて分かんないからね。田所さんはちょっと働きすぎだったし、身体を休めるいい機会にもなるんじゃないか」  部長は軽くそう言って部屋から出て行ってしまった。  えぇぇぇ。俺は戸惑いを隠せない。  田所は、大手不動産会社に就職して同じ支店に配属された同期だった。一緒に働いてかれこれ8年になる。長い黒髪を低い位置でポニーテールにし、細いフレームの眼鏡を掛けたいかにも「私仕事できます」感漂う女性で、実際仕事ができた。自分で言うのもなんだが俺も仕事ができる人間で、田所とは支店内で月の契約件数の1位2位を争うライバルでもある。  昨日だって田所が物件をようやく1件契約したらしかったので、すでに2件契約していた俺は「今月は俺の勝ちだな」と言うと「何言ってんの。私、今週、あと2件契約予定だから私の勝ちよ」と鼻で笑われた。憎まれ口をたたくほど、昨日は元気だったのだ。それなのにどうして急に入院なんて。  元々どこか体調が悪かったようでもないと思う。入社して以来無遅刻無欠席だったし、風邪を引いたという話も聞かない。いつか、自分の体調管理は完璧だとさえ豪語していた。毎日きちんと3食、一汁三菜を取り、睡眠時間は6時間以上を確保し、適度な運動もする。私の辞書に「病気」という2文字は存在しないと言っていたのに。
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