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2人のさくら
わたくしは執事に連れられ娘が待つ応接間へと向かいました。
執事がノックし扉を開けるとそこには2人の少女が向かい合って座っておりました。
どちらの少女も淡い青地に桜の木の枝に桜の花が咲き誇った振り袖を着ています。どちらもわたくしが15年前に修道院に置いていった物です。
「奥様、どちらが本物でしょうか?」
どちらが本物かなんて分かるわけがありません。
「お母様」
片方の少女がわたくしに抱きついてきました。
「お母様、やっとお会いできました。嬉しいです。」
彼女は小柄で長い黒髪を真っ直ぐ伸ばし可愛らしい桃色のリボンをつけております。着物に描かれた桜の色と近いからまた可愛らしい。
「お母様わたくしがさくらです。」
リボンの少女はわたくしから離れない。
「待って下さい。」
もう1人の少女が声をあげる。彼女はリボンの少女と対照的で長身だわ。肌も白く髪も一纏めにあげており簪をさしている。
「お母様、私が本物のさくらです。」
それだけ言うと再び口を閉じる。口数の少ない少女だろう。
「お母様、わたくしがさくらです。この手紙お母様がドレスと一緒に置いていった物です。」
リボンの少女はわたくしに手紙を手渡します。
「さくらへ
貴女を置いて日本に帰ること心苦しく思います。だけど心配しないで。この振り袖がわたくしと貴女をまた引き合わせてけれるから。
修道院で勉強して立派なレディになったらお母様と日本で暮らしましょう。
1890年10月2日神崎暖子」
それは15年前にわたくしが書いた物でした。
「待って下さい。それなら私もあります。」
今度は簪の少女が手紙を渡す。
こちらも全く同じ文面が記載されています。字も一緒。
これはどういうことなのでしょうか?
わたくしは部屋に執事を呼ぶ。
「奥様ご用でしょうか?」
「この娘達をそれぞれ客室へと案内して。」
『お母様?!』
2人のさくらは同時に声をあげる。
「本物のさくらはイギリスの修道院で貴族の娘に必要な教育を受けていたわ。この屋敷で生活していればおのずと分かるわ。」
わたくしはは2人の「さくら」を試してみることにしました。どちらが宮家の令嬢に相応しいか、どちらがわたくしの娘なのか。
部屋へ戻ると夫がわたくしの部屋へ来ていた。
「あなた。」
「暖子、お邪魔してるよ。」
わたくしは夫にお茶を出す。
「ありがとう。暖子、あの娘達、うちに置くのか?」
「ええ、だってどちらかはわたくし達の本当の娘ですもの。」
夫は宮家で唯一わたくしとフィリップ王子の過去を知っているのです。修道院に預け成長したら宮家に迎え入れようと提案してくれたのもこの人です。
「この屋敷で貴族の生活をしていればどちらが本物かきっと分かるわ。」
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