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気になりだしたらそればかり気になる。四人一緒に下校し、その中謙一が男子小学生を眺めながら「足か……」とか呟いていたが無視だ。
「謙一、前見て歩きなよ」
草太が反対側の歩道にいる男子小学生ばかり見ている謙一をたしなめる。
「犯罪する気なくても犯罪者扱いはイヤでしょ?」
由美ちゃんも謙一をたしなめる。
「はいはい分かったよ。もう目の保養はしたから十分だよ」
ケラケラと笑いながら両手をあげてオーバーアクションをする謙一。何気に人の注意は聞くんだよな。ショタコンと言ってもショタに何かしたい訳でもない。
そう言えば小学生の頃の謙一は可愛かったな。柔らかい髪の毛がふわふわと揺れて、朱に染まったぷくりとした頬にピンクの薄い唇に線みたいな眉。小学生の謙一も今の謙一みたいな人の目の保養になっていたのかな。
なんて思い出していたときに、私の足はふと止まった。
「あれか……」
誰にも聞こえないように小さく呟く。聞こえてはいなかっただろうが立ち止まった私を気にして由美ちゃんが声をかけてくる。
「穂乃果ちゃん、どうしたの?」
「いや。私は小さい頃、男の子みたいな格好してたなって」
「そう言えばそうだったね。今の謙一が見たら喜びそうな格好してたねぇ」
思い出す。謙一と私が一緒に公園の砂場で遊んでいて。私は知らないおじさんに声をかけられて連れ去られそうになった。それを見ていた謙一が叫んだんだ。「穂乃果ちゃんを返せ! 代わりに僕が行く!」って。
他の大人たちが気付いてその誘拐事件は未遂に終わったけど、あの時だ。私に恋心が芽生えたのは。華奢な綺麗な少年が身体を震わせながら、精一杯の勇気で私を守ろうとしたんだっけ。
そうだよ。私にとってのナイトなら、そりゃ好きになるよな。あのおじさんが私を男の子だと思ったかどうかは別だけど。
「もしかしたら、あの当時の穂乃果ちゃんが謙一の好みだったりねぇ」
由美ちゃんは笑えない冗談を言う。確かに謙一がショタコンになったきっかけが私でもおかしくはないだろう。てか、そうであったら私の恋の行方は有利なものになる。どうか私が目覚めたきっかけであってくれとは思うが、時間を巻き戻すことはできないし、私も謙一も成長していかなきゃならない高校生なのだから、昔にすがっても仕方あるまい。
思い出したはいいが、謙一を陥落させるに必要なのは、やはりショタに近づかなければならないのだろうか。
「今はどうなんだろう……」
そう呟くと由美ちゃんは私の頭をぽんぽんと撫でる。
「ふぁいと」
つい笑ってしまう。ショタを探すためにキョロキョロしている謙一の背中を見ながらやってやるわ! と意気込んでみた。
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