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「髪も切るか……」
鏡に映る肩まで伸びた髪をさする。恋って恐ろしい。自分を変えることにこんなにワクワクするなんて。
翌日の夕方に美容院の予約をし、バッサリ切った私の髪を見て家族たちは一様に驚いていた。失恋したの? なんて聞かれたが逆だよ。私は恋に真っ最中なんだよ。
学校に行ったら行ったでまず由美ちゃんが声をかけてきた。
「思い切ったね……」
「うん。なるべくショタに近付こうと思って」
「これで穂乃果ちゃんがフラレたら私、一生謙一を許さないなぁ」
由美ちゃんは、教室の隅のスマホで動画を見ている謙一を見る。多分またウィーン少年合唱団の動画を見ているのだろう。そうでなかったら小学生ユーチューバーとかだろうな。
続いて草太が声をかけてくる。
「髪切った?」
「うん。バッサリ」
「似合うよ。多分謙一も気に入る」
ドキリとする。草太も私の恋心に気付いているのだろうか。草太も常に側にいるけど、草太と恋バナすることもないからな。草太も謙一もそうだが、恋愛に興味あるかどうかも分からない。だからこそつけこむ隙はあるんだろうけど。
その日、謙一は私の髪については触れなかった。何かしら言いたそうにしていたが、俺はショタコンだからと全身でアピールする謙一にとっては女の子の髪型なんて些細なことなのだろう。だが見てろよ。遊園地で必ずお前を落としてやる。諦めてやる気なんかないんだから。
遊園地当日、私は早々起きて、ショタ装備を身にまとい、ショタメイクを念入りに施す。鏡で自らの姿を見てうんと頷く。
「よし。紛れもなくショタだ」
今日、謙一を陥落できなかったら、こんなチャンスは二度と来ない気がする。あと必要なことは何だろう? やっぱり、お兄ちゃんとか呼んだほうがいいのかな? 謙一の敬愛するショタ漫画は大体そういうのがテンプレだ。なんかボディタッチとかも多かったなぁ。それは今日やるほうがいいのか、付き合えたらやるほうがいいのか悩みどころだ。
「なるようにしかならんか……」
そんな言葉が口をつくが、自信はあるんだ。これでも。
集合場所の駅前に向かう。ちょっと早く出過ぎた気もするが、勝負は謙一が私を見た瞬間だ。謙一が私を見てどう反応するか。由美ちゃんも草太もいるけど、腐れ縁の二人なら目の前で告白タイムしても許してくれるさ。
一人駅前で佇む私。通りすがる人は私をチラチラと見る。男の子なのか女の子なのか気にしているのだろう。少し恥ずかしくもなるが、謙一と恋人になったらショタメイクとショタコーデは必要になるから慣れないと。
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