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俯き、みんなを待つ時間。異様に長く感じる。集合時間まであと十五分。そろそろみんな来てもいいのに。こういう日に限ってなぜかみんな遅い。
最初に現れたのは謙一だった。
「え? 穂乃果?」
私の全身を見てから目を反らす謙一。
「謙一、どう? 似合ってる?」
「……うん。似合ってる……。俺にはちょっと刺激強いかも……」
このショタコンは、と思うがこの作戦は成功らしい。
「可愛いショタに見える?」
「うん。可愛い……」
目をキョロキョロさせる謙一。ちゃんと見ろよ。
「私ね、謙一のためにこんな格好したんだよ? この意味分かる?」
「えと……、あの……、うん……。でもさ、俺は少年の足がこの世の中で一番美しいと思ってる奴だぞ? それでもいいのか?」
「それも含めてさ、私は謙一が好きなの。誰にも渡したくない……」
謙一のキョロキョロしていた目が私をジッと見つめてくる。
「後悔するなよ?」
「絶対しない!」
謙一の右手が私の前に出される。私は右手でそれを掴む。
「これから恋人としてよろしく」
「うん! 謙一大好き!」
つい抱きついてしまった。謙一の両手が私の背中にまわる。
「どうせだから俺も暴露するよ。俺がショタコンになったのは、穂乃果のせいだから。小さい時の穂乃果が男の子みたいな格好してたせいだから。だから責任取れよ」
なんてやっていると由美ちゃんと草太がひょっこりと現れた。
「いやぁ。いいもん見たわ」
「俺もドキドキしちゃったよ」
謙一は私を振払おうとするが、そうはさせるか。
「今日は沢山見せつけてあげるから」
「ちょっとちょっと! 穂乃果、ちょっと待って!」
「なぁに? お兄ちゃん?」
謙一の心臓がバクバクと鳴っているのが分かる。このショタコンめ。効果は抜群じゃないか。
その日の遊園地は最高に楽しかった。由美ちゃんと草太が気を遣ってくれて謙一と二人の時間が大量にとれた。由美ちゃんと草太付きではあったけど、初デートと呼んでもいいだろう。朝、由美ちゃんと草太がいつもより遅かったのは私の告白を見守るためだったらしい。結局は草太にもバレていた訳だ。
帰りの電車の中、私は謙一と並んで座る。手もちゃんと握って。幸せな時間の中、謙一は大きく息を吐いて語りだした。
「穂乃果、あのな。確かに俺はショタコンだし、これからもショタを愛でるし動画も見る。だけど、穂乃果は無理にショタにならなくていいから。そのままの穂乃果を俺は見るから。たまにはそんな格好してくれたら嬉しいけど、穂乃果は穂乃果の好きな格好しなよ。そのままの穂乃果もちゃんと好きだからさ」
「うん。謙一、好き」
謙一の肩に頭を乗せる。その横に座る由美ちゃんも息を吐く。
「はぁ。尊いなぁ。ショタコンに芽生えさせたのが穂乃果ちゃんで、謙一の最初の恋人も穂乃果ちゃんなんて、尊い尊い。これじゃ学校で尊死しまくるじゃんねぇ。ねぇ草太」
「謙一と穂乃果はもとから尊いよ」
私と由美ちゃんがギョッと草太を向く。
「どういうこと?」
私はつい聞いてしまったが、聞いた時点で気がついた。草太は何事もなかったように淡々とその言葉を口にする。
「謙一と穂乃果はずっと前から両思いだったから。今に始まったことじゃない」
そうか。私は由美ちゃんに相談していたけど、謙一は草太に相談していたのか。草太は知ってて黙っていたのか。
「謙一……、できたら告白してほしかったな」
「ごめんよ。でもショタコンなのは本当だから、それで穂乃果に迷惑かかってもさ……」
「許すよ。ショタを愛でても許す。どうせショタに芽生えさせたの私なら、焼き餅焼くことも少ないだろうからさ」
再び、謙一の肩に頭を乗せる。
幸せってこういう時間を言うのだろうな。
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