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父が亡くなってから、母が女手一つで僕と姉を育ててくれた。
幸いにも、母は介護士の資格を持っていたので就職に困る事はなかったけれど、介護士の仕事だけでは幼い子供を養育するだけのお金は得られなかったようである。
仕事の合間にスーパーのレジ打ちやラーメン屋の雑用をしていたり、夜遅くまで造花やアクセサリーを作る内職も行っていた。
僕達はそんな母を助ける為に新聞配達のアルバイトをして自分の小遣いを稼いでいた。
それでも母は毎日暖かいご飯を用意してくれ、遠足に行く日の朝は早起きして豪華な弁当を作ってくれた。
修学旅行に備えて新品の服と靴も用意してくれた。
あちこちの行楽地に出掛け、国内小旅行にも出掛けた。
お金はなかったけれど、僕達はとても幸せだった。
そんな幸せはある日突然奪われた。
母が交通事故で世を去ったのだ。
第一志望の高校から合格通知が届いた一週間後の事だった。
姉は医学部医療看護学科に通いながら大学付属病院で看護助手のアルバイトをして、家計を助けていた。
事故の知らせを受けてアルバイトを休んで帰宅した姉と、
「早く一人前になって、お母さんを楽させてあげたかった」
そう言って、泣きながら抱き締め合った。
こんなに悲しく、衝撃的な事は初めてだった。
ところが葬儀が終わり、役所に死亡書類を提出しに行った姉から更なる衝撃的事実を聞かされた。
僕達が「母」と呼んでいた人は、本当の母親ではないというではないか。
役所の人がいうには、僕達は「養子」として籍に入っていて、僕と姉の母親はそれぞれ別の女性になっているらしい。
父親は同一人物だった。
僕と姉の母親も、鬼籍に入っている。
どういう事なのだ、これは。
「嫌な話をするけど」
姉が言った。
「お父さんには三人の愛人がいて、それで私達の母親が亡くなった後、自分には育てられなくて、お母さんに押しつけた。とかなのかなあ」
実際、父の戸籍に離婚歴などはなかったという。
思わず顔を見合わせた。
姉の推測通りだとしたら、父は男としても人としても最低である。
「お父さんは病気で死んだ」
と聞いて育ったが、それも本当の事だろうか。
もしかしたら、母はいつか真実を打ち明けるつもりでいたのかも知れない。
だけど、思わぬ事故で母はいなくなってしまった。
一体何が真実なのか、実父もそれぞれの実母も母もいない今となっては分からない。
だけど、僕達は母に大切に育てられていた。
叱られる事はあったけど、理不尽に怒鳴られる事も暴力を振るわれる事もなかった。
母はいつも笑顔で接してくれた。
それだけは、何も変わる事のない真実である。
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