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 ある日、ヨンチョルの店内で、点けっぱなしにしていたTVが国会中継を流していた。この時代、「国会中継」と言っても、実質的には「政府広報」でしかない。野党からの質疑応答もない、与党が一方的に自分たちに都合の良い政策を喋るだけというこの番組の中で、内閣総理大臣がこのように述べていた↓。 『…今現在、東アジア情勢は風雲急を告げる事態となっております。中華人民共和国の軍備拡張・北朝鮮の核・ミサイル問題。それだけではありません。ロシアの領土的野心により、北海道の土地が武力の行使を伴う可能性もあって、狙われたりもしています。日本は最早、平和的外交に安易に頼るべきではない。そして東アジア情勢の変化に、わが国も迅速に対応しなくてはならないのです』 そして総理大臣は一呼吸置くと、一際大きな声でこのように切り出した↓。 『そこで我々自権党は、日本に国民皆兵制度を導入する意向です!』  店内がざわつく。誰もが、突如として与党が「全ての日本人に銃を執らせて戦争に駆り出す」という法案(ではなく既定路線)を提出したことに対して、ある者は戸惑い、またある者は震えだし、そしてさらにある者は怒り狂った。 「え?今『国民皆兵制度』って言ったよな…?」「国民に対して徴兵制を布こう、…ということ!?」「ま、まさか…俺たちの自権党がそんなジョークをとばすはずは無いよな…」「私の息子が軍隊でいじめられるの!?」「女子まで軍隊に動員されることは…ないよね!?」「国民皆兵制度って…爺さん婆さんまで銃を手に執らせるということか…!?」「嘘だ!!自権党がそんなことを言い出すわけがない!!」「そうだそうだ!これは地下に潜った野党の謀略工作だ!!絶対にそうに違いないぞ!!!」etc.etc.  そして何者かが、咽喉も張り裂けんばかりに大声で叫び出す。 「チョーへーハンタイ!」
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