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 翌日から、街は昨日までの平穏さ(但し、ヨンチョルの住んでいる街は、時折レイシスト団体が街宣に訪れるが)が嘘のように、大シュプレヒコールを上げる民衆で覆いつくされるようになった。そしてその誰もが「日本国憲法第9条」を持ち出して、与党自権党の打ち出した「国民皆兵制」に猛烈に反対しだしたのである。 日本国憲法第9条っ!戦争の放棄っ!戦力及び交戦権の否認っ! 1っ!日本国民はっ、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求しっ、国権の発動たる戦争とっ、武力による威嚇又は武力の行使はっ、国際紛争を解決する手段としてはっ、永久にこれを放棄するっ!! 2っ!前項の目的を達するためっ、陸海空軍その他の戦力はっ、これを保持しないっ!!国の交戦権はっ、これを認めないっ!!!  ヨンチョルの住む街にも、早朝から夜遅くまで、スピーカーでこのように大声でがなり散らす者の声が聴こえてくる。そのため、彼も妻のチュンヒも、そして大学院で数理経済を専攻する一人娘のヒスンも安眠が妨害されて、寝不足に悩まされるようになった。  それだけではない。新聞の株式欄を閲覧すると、国内の醤油メーカーの株価は「国民皆兵制度」発表の翌日からぐんぐんと天井知らずに上昇し、海外に「政治難民」と称して家族ぐるみで脱出しようとする者が後を絶たず、「徴兵免除祈願」を唱える怪しげな祈祷師が巷で跋扈するようになった。さらに、「経歴に傷がつけば兵隊にとられなくて済む」「それどころか国民皆兵制の対象外となる」という噂が流れ、「日本は犯罪の少ない国」という外国の評判が嘘であったかのように、青少年による放火・強盗傷害・性的暴行etc.の凶悪犯罪が激増したのであった。  しかし、与党自権党もそれほどバカではなかった。  国内の醤油メーカーの株が何時の間にか政府によって買い占められ、正当な理由もなく国外に脱出しようとする者には莫大な出国税(総資産の1/3)を課し、「反社会カルト取締法」という法律が「国民皆兵制」発表と同時に施行されてそのような怪しげな祈祷師も軒並み逮捕・投獄され、さらに「兵役の義務を負う=非行少年の更生と看做すので、罪を犯した青少年も一般人と等しく徴兵する」etc.の対策を、自権党は矢継ぎ早に実施していったのである。    ちなみに、実質的に政治を私物化している与党自権党の打ち出した「国民皆兵制度」とは、具体的には次のページのような施策である。
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