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田舎町の所為か、まだ年配者は、結核は怖かった様で、子供や孫たちに
「あの子と付き合っていたら、お前も結核を貰うよ」と
萌音にまで聞こえる様な声で言ったり、萌音を見ては、ひそひそ話したり
「あの子は、もう、結婚も出来まい」等と言う声も聞こえ
萌音の心を暗くした、自棄になって、馬鹿な事ばかりしていたが
そんな萌音に、変わらず、ずっと一緒に居てくれ、励ましてくれた
たった一人の友達が、今日、結婚したんだと言う。
萌音の心の影は、人の噂で、傷付いていたものだったと、晴陽は知った。
「そうか~萌音が、この町に引っ越して来た時と、俺が大阪へ行った時とは
同じ頃だったんだね」
だから、こんな狭い町なのに、萌音の事は、何も知らなかったんだとも思う。
晴陽も、自分の生い立ちを話したが、浪子との関係だけは、黙っていた。
浪子との事は、誰にも、特に萌音には、知られたくなかった。
頭の中に出て来た、浪子の顔を振り払う様に、萌音を抱きしめて
「萌音と結婚出来たらな~」と、思わず言ってしまった。
「あら、まるで結婚できないみたいな良い方ね」
萌音は、晴陽の胸から顔を上げて言う。
「駄目だろ?萌音と俺じゃ、身分違いって奴だよ、萌音のお父さんは
校長で、お母さんは、教頭なんだろ?
俺には、両親も兄弟も居ない、仕事も、バーの皿洗いだ、萌音を下さいなんて
言えっこないよ」「まぁ、随分弱気なのね、うちの両親は、一応教育者なのよ
人の職業や、環境で、差別なんかしないわ。
うちの方こそ、こんな病気をして、貰い手の無い娘を
貰ってくれるって言う人が居たら、大喜びすると思うけど」
そう言った萌音は「でも、、私も、病気の再発を考えると
結婚してって、言えないわ。
大好きな晴陽を、苦しめる事になるもの」と、悲しい声で言った。
「それは、心配するなって、さっきも言っただろ」晴陽は、優しく頭を撫で
「萌音は、俺が結婚してって言ったら、結婚してくれるの?」と、聞いた。
「勿論よ」萌音はきっぱり言った。
晴陽の胸は、喜びで一杯になり、萌音を更に強く抱きしめる。
こんな嬉しい事を言ってくれる萌音、離したくない、誰にも盗られたくない。
自分の物にしたい、だが、浪子と上手く別れられるのか。
「それでも、ちゃんとした、出来れば昼間の仕事に就きたいけど
今から頑張っても、時間が掛かるだろうな~」晴陽がそう言うと
「私ね、病気をした事で、一つだけ覚えた事が有るの」
「何?」「待つって事、どんなに焦っても、治るまでは待つしか無いでしょ
一年ちょっと、ずっと待ってたわ、そして、待つ楽しみを覚えたの。
だから、晴陽が、私を迎えに来るまで、楽しみに待てるわ」
「萌音」そこまで言ってくれる萌音に、自分も、なすべき事をしよう。
晴陽は、決心した「時間は掛かっても、必ず、萌音を迎えに来る。
だから、待っててくれ」「嬉しい!!でも、待つ楽しみを増やしたいの。
時々は、晴陽の声が聞きたいわ、スマホの番号教えて」
萌音は、晴陽が恐れていた事を、言った。
「俺、フェリーに乗る前に、洗面所の水の中に、スマホを落として
駄目にしちゃったんだ、だから、萌音の番号だけ教えて、大阪に帰ったら
直ぐ、スマホを買って、一番に電話するから」
晴陽は、苦しい嘘をついた。
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