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出会い
萌音は、開け放した出窓に頬杖をつき、ぼんやり外を見ていた。
出窓には、友達の麗奈の結婚式の招待状が、置いてある。
麗奈も結婚する、それは、嬉しい事だったが
とうとう一緒に遊ぶ、友達が、一人も居なくなった。
私には、結婚してくれるような人は、一生居ないだろうな~
そう思いながら、色付き始めた紅葉の木を見ていた。
ドドドドッと言う、低い大きな音を響かせて、目の前の道路に
大型のバイクが停まった。
乗っている人は、黒い皮のパンツに、黒い革ジャン、黒いヘルメットに
黒いサングラスと、黒いマスク、まるでカラスだと、萌音は思った。
その人は、バイクから降り、ヘルメットを脱いだ。
バサッと出て来た、金色の長い髪が、秋の陽をはね返して、キラキラと光る。
女の人だったのか、驚いている萌音に、その人は、ちょっと顔を向けると
そのまま、細い路地に入って行った。
一体、誰だろう?その路地の左右に有る、5軒の家は、どこも顔見知りだ。
回覧板などを持って行ったり、年に一度の溝掃除の時は
母の代わりに、萌音が出たりする。
「萌音ちゃんは、若いのに、感心だね~」5軒とも、住んでいるのは年寄りで
萌音の事を可愛がってくれる。
長い足、スレンダーな身体、美しい金髪、あんなカッコイイ若い女性と
関係有りそうな家は、無かった筈なのに。
暫くすると、その女性は戻って来て、萌音の方を見ると
「乗る?」と、バイクの座席を指差して聞く。
吃驚したが「うん」直ぐに返事をして、窓を閉め
スカートをショートパンツに、はき替えて、出て行った。
座席の下から、予備のヘルメットを出して、萌音に被せ、後ろに乗せると
自分も跨って、萌音の両手を、自分の身体の前に回し、指を組ませた。
萌音は、その女性に、ぴったりくっつく形になった。
ドルルルル、体中が振動する。
「行くよ」その声と同時に、バイクは、風を切って走り出した。
道は、直線になり、バイクはスピードを上げる。
バタバタと、ブラウスが体を叩く、凄いっ、なんて早いんだろう。
初めて乗るバイクに、萌音は興奮した。
カーブに差し掛かると、その女性は、大きく体を傾けた。
萌音も、つられて傾ける、飛んで行く道路が、目の前に迫る。
「わぁ~近い~」身体が、ぞくぞくする。
バイクは、海沿いの小道を走り、道が途切れた所で停まった。
バイクから降り、海に向かって歩く、波で削られ
すべすべになった丸い石が、敷き詰められた様な、浜辺。
その中の、大きな石に、並んで腰掛ける。
目線が下がって、寄せて来る波が、ぐっと近くに感じる。
「名前は?」その人は、優しく低い声で聞く。
「萌音、貴女は?」「晴陽」「良い名前ね」「お互いに、春生まれの様だな」
その女性は、まるで宝塚の男役の様に喋った。
「ええ、四月生まれなの」「やっぱり!!同じだな」
晴陽は、マスクを取って、ポケットに入れ、嬉しそうに笑った。
なんて、美人なんだろう、萌音は、その顔に見とれる。
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