始まる変化

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「んん~~っ! 美味しいっ!」  大きな海老天を頬張る智穂。風呂上がりの肌は艶やかだが、数日の無理が祟り目の下のクマ等、疲労は滲み出ていた。 「こんな風に副菜や汁物が付いた食事なんて、久しぶりだよ~」  サイドメニューに頼んだサラダやみそ汁にもご満悦の様子で、頼んだ蓮も一安心していた。  天丼のデリバリーと智穂の風呂を待つ間、リビングとキッチンの片づけをしていた蓮。積みあがったカップラーメンやインスタント食品の殻から、この数日の智穂の食事がどのようなものだったのか、想像に難しくなかった。 「原稿に集中している時は、いつもメシはあんな感じなの?」 「あ~……。片づけてくれたの? ごめんね、手間取らせちゃって」 「いいよ別に。待ってる間暇だったし」 「原稿中はね、ご飯作ったり食べる時間も惜しくて、あんな感じになっちゃうんだよね。だからカップラーメンとかインスタントを買い置きしてるの。デリバリー頼むと受け取ったりで集中力途切れちゃうし……」 「なるほどね……」  以前から智穂のマンションに、一人暮らしの女性としては多いインスタント食品の買い置き量を疑問に思っていたが、ここにきて謎が解けた。多すぎる買い置きは、原稿集中期間用だった。  蓮は納得すると同時にため息がでた。  いくら時間が惜しいとはいえ、その生活は不健康が過ぎる。 「そんなに原稿の締め切り、ギリギリでヤバいの?」 「えっ?」  なんで? と、どんぶりを左手に持ったまま固まる智穂。 「だってそうだろ? そんなに根を詰めて原稿してるなんて」 「ああ、違う違う」  蓮の質問の意味を漸く理解して、智穂がぱぁっと笑う。 「むしろ逆。締め切りはずっと先。兎国院有里朱は締め切りを必ず守るのが信条であり、自慢なんだよ」  えへん、と智穂が胸を張る。  それを聞いた蓮は余計にわからない、という顔をした。 「それだとおかしいだろ。何で締め切りに余裕があるのに、こんな限界の生活しているわけ?」 「それは……」  少し言いよどんだ後、観念したように智穂が話を続けた。 「書くのが楽しいストーリーだと、手が止まらなくなっちゃうんだよね。寝ても覚めても、ご飯食べてる時も続きが書きたくて仕方がないって感じで……」 「なるほど。確かにそれだけ書きたいんなら、小説を書く才能ってのがあるんだろうな」 「才能なんて……そんな、そんな」  満更でもないように智穂が照れ笑う。しかし蓮は眉間に皺を寄せる。 「今日はもう書いちゃダメだ。これ食い終わって、リラックスして、早めに寝ろ」 「え~。なんでよ」 「なんで、じゃない。さっきまで碌に休まず小説書き続けてボロボロだったじゃないか」 「じゃあ、今日はエッチしないの?」 「しません」 「え~」  智穂が不満を隠そうともせずに、唇を尖らす。 「原稿作業って順調でもストレス溜まるから、発散したいんだけどな~」 「それは疲れてるだけだ。そんなもん、ぐっすり寝たら吹っ飛ぶ」 「はぁい」
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