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「旦那様」
「…っ!
──────西原か」
ノックと共に私の部屋に入ってきたのは、執事をさせている西原だった。
ここにいると、ついボーッとしてしまい、物音にもハッとしてしまうな…。
「旦那様、あたたかいお茶をお持ちしました。
どうぞ」
ソファにかけている私の側に立つと、西原は湯気のたつ湯呑みを差し出した。
「…あぁ、ありがとう」
…色白い素肌を隠すように、黒く長い前髪が西原の顔を覆っている。
「日が落ちて、冷えてきましたね。
旦那様、窓を閉めますよ」
「あ、あぁ…」
そう言うと、西原は部屋の窓とカーテンを閉めた。
外はもう、夜になろうとしている。
いかんな…
時間が経っている事にさえも気付かなかった。
いつまでも、過去に引きずられてはいけないというのに。
「……では西原、息子と家の事は任せたぞ」
「旦那様、もう行かれるのですか」
「あぁ、まだ終わらせていない仕事が残っているからな」
仕事…と言うのは、半分は言い訳だ。
単にこの家と西原、そして息子の顔を見ないようにしているだけだ。
「……………………」
私は、決して息子や西原が憎くてそうしているわけではない。
全ては、私の妻である凜音への想いが強すぎたせいなのだ。
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