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新学期が始まって少し経って。生徒も先生も、互いの距離感をはかるべく無意識に張っていた防御壁が程よく薄らぎ、互いに心の内を言葉にできるようになった今日この頃。
かく言う私は教室に残っていたところを体よく先生に捕まった。
遠慮無く振られる雑用をあれやこれやとこなしていたら、いつもよりも少し遅くなってしまった。部室棟のあたりからはまだ声が聞こえてくるが、教室のあたりにはもう誰の姿もない。
他の生徒が皆家路についた後の、夕日の差し込むがらんとした教室にぽつんと残されている鞄を回収して、教室を後にする。廊下を進み、登ってきた時とは廊下を挟んで反対側にある下足箱に近い方の階段を下りた。この選択が、失敗だった。
教室のある四階から二階分を下りたところで、進む先に人の気配を感じる。
一階と二階の間にある踊り場。
わざとこの場に出くわしたわけでも、こんな場面を見るつもりでもなかった。
咄嗟に階段の陰に隠れた私の視線の先には二つの人影。
――あれって、啓吾……と、A組の森沢さん? だっけ。
大橋啓吾は私の幼なじみだ。幼稚園、小学校、中学校、そしてなんだかんだ高校も同じところを選んだ私たちの付き合いは、もう十五年にもなる。
啓吾と森沢さんとは二年の時の委員会が同じで、確か今年も一緒――だったか。
二人が連れ立っているということは。
――委員会終わり、かな?
思わず影に隠れてしまったが、よく考えれば別に悪いことをしているわけでも隠れる理由もない。どうせ啓吾とは家が近くなのだし、声を掛けてみようか。
しかし再び、そろりと顔を出した先、二人の立つ踊り場には得も言われぬ空気が漂っていた。なんとなく出て行きづらい。
どうしようかと逡巡しているところだった。瞬間。
「あのっ、私……大橋くんが、好きです!」
届いた声に驚いた全身がぴきっと固まり動きが止まる。
――これって……告白っ……!
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