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その場面に居合わせるのは、さすがに初めてだった。初めてだったけれど、まったく想像した事が無いわけではない。ただ、心のどこかでそんな想像は現実にはならないだろうと無意識のうちに、勝手に決めつけていた。
正直に言って、啓吾はかっこいい。元から素材はいいのだ。単に色々と、無頓着なだけで。
それが高校に入ってから――特に二年の半ばあたりから、無頓着では隠しきれなくなったかっこよさが啓吾から滲み出し始めていたことには私も気づいていた。
ついに三年へ進級してからは後輩の間でファンクラブなるものが設立されたという噂まで耳にするようになった。だから、たぶんこういう――告白を受けるのは、啓吾にとっては初めてではないのかもしれない。私が知らないだけで。
知る由もないところでされた耳にも入らない会話ならばいざ知らず。目の前で聞いてしまうと、意識しないわけにはいかない。
啓吾はなんと返すのだろう? 森沢さんは学年の中でもかわいいと有名で、同じクラスになったことのない私でさえ顔と名前を知っている。
お似合い、なのかもしれない。
ふと沸き上がってしまった了簡に、自らの胸の奥がすっと冷える。
――いやいや、でも今まで彼女なんていたことなかったし!
耳にしてしまった言葉を、思い浮かんでしまった考えを、根拠のない思い込みで上書きするように否定する。
啓吾のことだ。慣れない話にきっとまともに返事もできない気がする。お得意の、いつもの『やんわりふんわり笑顔で面倒事はスルー』スキルの出番ではないか。そうだ、なんだかんだで断るに違いない。だって、いくらお似合いに見えても、啓吾が森沢さんを好きになる理由なんて、無いと思うし。無いはずだし。
そう、たかをくくっていたのが余計に悪かった。
こっそり陰から覗いた先には、驚いた顔で耳の先をほんのりと赤く染める啓吾の姿があって。
――……え?
目にした光景に、胸の奥がすうっと冷えて胸の奥深くが凍り付くような思いがした。
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