3人が本棚に入れています
本棚に追加
***
いつになったら終わるのだろう。
「おい!聞こえてんのかよ!!」
この地獄は。
「気持ち悪いから学校来んなって言ってんだよ!!」
いつになったら終わるのだろう。
「なんか言えよ!ブス!おい!!」
リーダー女の怒号と、耳障りな仲間の女子たちの笑い声が脳に響く。サッカーボールのように寄ってたかって蹴られる私の体は痣だらけだ。
そして、無様に這いつくばる私の周りには、同じく傷だらけでボロボロの鞄とノートたち。
いつになったら終わるのだろう、こんな地獄は。いや、終わりなんて来ないのかもしれない。そうだとしたら、自分で終止符を打つしか、ないのだろうか、なんて、、。
「おい!!」
これまでで一番の大声に、私の体は思わず大きく跳ねてしまう。そして、うずくまって、ただ床を見つめる。それしか、できない、、。って、あれ?
「何してんだお前ら!」
再び大きな怒声が響く。よく聞いたら、これ、男の人の声だ、、。
「うるせえなあ、お前には関係ねえだろ!」
「うるさいのはお前らだろ」
なんだ?何が起きてる?男の人と、リーダー女が言い合いを始めた。
「大人数だか、、、強くなった気に、、、自分が何を、、、かんが、、、かえしのつか、、、」
突然のことすぎて、言葉が全然入ってこない。でも、男の人が女たちに説教をしていることと、初めて女たちが困った顔をしていることはわかる。
「チッ、行くぞ」
気づくと、沈んだ表情のまま、女たちはどこかへ行ってしまった。どうやっても、逃げることができなかったのに、いとも簡単に、どこかへ行ってしまった、、。
「おい、大丈夫か?」
ようやく、男の人の声がきちんと聞き取れた。男の人は、わざわざしゃがんで、床に座り込んでいる私と目を合わせる。
「もう大丈夫だぞって、言いたいとこだけど、そんな無責任なことは言えねえからな。また同じようなことされたら、俺を呼んでくれてもいいぞ」
男の人は、優しく声をかけてくれている。でも、私はまだ気が動転していて、何も言うことができず、彼の目を見ることで精一杯だ。
「でも、勇気出して自分から行動すれば、案外簡単に状況は変わるかもしれねえな」
「勇気を出して、、行動、、」
ようやく私は声を出すことができたが、男の人の言葉が胸に刺さり、思わず復唱してしまっていた。
「あっ、ありがとう、ございました!」
私は慌ててお礼を言った。
「全然いいよ、気にしないで」
男の人は私の目を見て、優しく言う。
目と、目が、合っている。私の瞳に彼が映り、彼の瞳に私が、映っている。今まで感じたことのない感情に胸が満たされ、動悸が止まらなくなる。
「てか、先生に言ったほうがいいよな?職員室、行こっか」
「いや!大丈夫。めんどうなのは、嫌だから」
「そう?なら、いいんだけど、、」
男の人は、少し迷った表情をしたが、納得してくれた。私は、本当に大ごとになるのが、面倒で嫌だった。
「まあとりあえず拾いますか」
男の人は、散らばった荷物を拾い出した。私はそれを受け取り、ボロボロの鞄に詰めた。
「ごめーん、お待たせ〜」
するとそこに、綺麗な女の人が現れた。
「って、何この状況?」
「いやー、この子がいじめ、られてんの見ちゃってさ、黙ってらんなかったわ」
「もしかして、エリカたち?」
「あー、隣のクラスだから分かんないけど、確かそんな名前だった気がする。知ってんの?」
「うん、普通に友達でさ。なんか最近良くないことやってんのは分かってたけど、ずっと見て見ぬ振り、してた。なんか、ごめんね、こんな、彼女で」
「ううん、気にすんな。仕方ないよ」
私を放ったらかして、二人の会話が始まってしまった。まるで私は、二人の世界から取り残されてしまったようである。
それでも、私の目には、もう彼の姿しか映っていない。私が彼の隣にいたい。私が彼を独り占めしたい。私が、私が、、
「あっ、ごめん!放ったらかしにしちゃって!」
彼は突然私の方に振り向いて言う。
「じゃあ、俺、帰るから。気をつけて帰れよ!」
「うん、ありがとう、ございました」
彼は、行ってしまった。綺麗な女と二人並んで、行ってしまった。私はそれを、見送ることしかできない。心が、締め付け、られる。
胸にそっと手を当てる。とてつもなく、動悸が、激しい。さっき蹴られていたときよりも、ずっと、ずっと、激しい。
何だろう、この気持ちは。
***
最初のコメントを投稿しよう!