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人生には良いことと悪いことがバランスよく配分されて起こるものだ。
筑田がそう思うようになったのはいつからだったろうか。若い頃には小さなことで嘆くのを、同じような言葉で慰めてくれた上司がいた。
「小さなこと」というのは、例えば、机の角に太ももを激しくぶつけてから、ハサミで指を切りそうになり、パソコンのデータを保存せずに消してしまった、なんてことが1日のうちに起こった時に。
「まったく、ついてないですよ…」
なんて言っていると、人生の大先輩である上司は、自分の経験と照らし合わせて、そんなことは大したことではないとでもいうように、前述の言葉を筑田に投げかけるのだ。
そうは言っても、その時の彼にとってはそんなことでも一大事。他人事だと思って…と内心はその上司に、なにもわかっていないなと、憤りを感じても、数日で忘れてしまう。
その後になって考えれば、ハサミで指を切るなんて、長く生きている間に起こる出来事としては、些細なことだ。
ましてや、数日で忘れてしまうことなど、本当に些細なことだと。そんなことは、過去から引きずる苦い記憶でわかっていることだ。
ずっとずっと逃れられない、まだ未発達な記憶を大人になっても引きずっているなんておかしなことだと思うだろうけれど。
きっと多くの人がそうだろう?
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