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図書室
ーそれは、突然に。
放課後の図書室は静かだ。
何か聞こえるとすれば、それは木の葉が揺れる音か、本のページをめくる音ぐらいのものだ。
だから、彼女の鈴のような声が突然上から降ってきたときは、ひどく驚いた。
「ねぇ、何読んでるの?」
慌てて顔を上げると、白地に赤のタイを巻いたセーラー服の美少女が私の事を見下ろしていた。
「...夏川さん」
どぎまぎしながらつぶやいた私の事を、彼女がクスリと笑った。
窓から吹き込んだ風が、彼女の長い黒髪を弄ぶ。
前の席失礼するね。
そう言って彼女は、音を立てて木製のイスを自分の方へ引き寄せた。
「驚かせてごめん。山川さんだよね、同じクラスの図書委員の」
長い睫に縁取られた、黒くて大きな瞳が私を見据える。
鼓動が早くなっていくのがわかった。
「あ…は、はい…そうです…」
眩しい視線に耐えられず、思わず目を伏せる。
消え入りそうな声で答えた私に構わず、よかったと彼女は安堵の溜め息を吐いた。
「図書委員、やったことなくて困ってたんだ。図書室に山川さんがいてくれて、ちょっと安心した。」
ニコっと微笑んだその顔に、胸がキュッと締め付けられる。
「そ、それはよかった」
赤くなった顔がバレないように俯いて答えたが、少し声が上擦ってしまった。
そんな私を煽るように白いカーテンがひらりひらりと揺れる。
「私に、図書委員の仕事、教えてくれる?」
頬杖をつきながら、彼女が笑う。
八重歯がチラリと顔を覗かせた。
春の温かい日差しに照らされた彼女のその顔は、いつも私をおかしくさせる。
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