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クラスの大人しい子供だった僕が、最初からこのようなことをやっていたわけではない。野球クラブも合わなくてやめてしまったし(走るのが遅かったのと、キャッチがあまりにもヘタクソだったせいだ)、クラスでも運動神経・成績ともに中の中。良くも悪くもめでたない、つまらない生徒だったと思う。
四年三組の、春。
そんな僕に目をつけてきた奴がいたのだった。それが、矢田大貴。いわゆる、体が大きくて力が強い、ガキ大将というやつである。ただ、一般的な苛めっ子と違うのは、彼が僕のような生徒に声をかけた理由が“いじめるため”ではなかったということか。やや傍迷惑とはいえ、彼なりの善意で僕を“遊び”に誘ったのである。
「おい、小林。お前いつもつまんなそうな顔して外見てるよな。野球クラブもやめて、毎日退屈なんじゃないのか」
「……た、退屈だけど。それが矢田君に関係あるの」
「あるよ。俺は、そーゆーつまんない顔してるやつがほっとけないんだ!面白い遊びを教えてやるから、俺達と一緒に来いよ!」
本人は僕を脅したわけでもなければ、殴ってきたわけでもなかった。それでも圧倒的にデカい彼が、仲間を二人引きつれて僕の机の横まで迫ってきたのである。はっきり言って、逆らえるはずもない。僕は渋々頷いた。ついていかない、という選択肢がなかったのだ。なんせ、矢田と同じクラスになったのは今年が初めてで、彼がどういう生徒なのかほとんど全くと言っていいほど知らなかったものだから。
彼は、僕の家のすぐ近く、住宅街のところまで僕を連れていった。そして、こう説明したのだ。
「この近辺は、野良猫が凄い多い。ほら見ろ、あの駐車場とか完全に猫のたまり場になってるだろ」
「……確かに」
「あそこ、なんかの店の駐車場?らしいんだけど、場所が不便なのか全然車が停まってなくてさ。俺らが遊ぶのに便利な場所だったんだけど、ここ最近猫に占拠されちまってて邪魔なんだよな。なんか団体で引っ越してきやがったみたいで。……そんで、できれば猫の奴らを、まるごとこのあたりから追い出したいんだよ」
まさか、猫を殺すとか言うんじゃあるまいな。流石にそれは承服できないぞと青ざめる僕に気づいて、彼は“ちげーよ”と笑った。
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