いし、いし、いし。

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 あいつを倒して、僕達がこのエリアのボスになるのだ。僕は大きく腕を振りかぶって、投げた。いつもより少し大きめの石は、まっすぐボス猫の方へ飛んでいく。  普段と同じように、少し本人からズレた軌道を選んだつもりだった。しかし、直前で猫が動いたのである。結果。 「ギャッ」  濁った悲鳴が上がった。振り返った猫の額に、思いきり石がぶつかったからである。 「あっ」  この時。僕はやっちまった、としか思わなかった。猫本体に石をぶつけたらいけない、そういうルールを破ってしまった、と。猫に申し訳ない、なんて気持ちはこれっぽっちもなかったのである。  だが。 「ア」  猫の額がぱっくり割れて、血がだらだらとその顔を伝っていく。ボス猫はゆっくりと立ち上がると、こちらをギラついた目で睨みつけてきた。  そして全身の毛を逆立てると、初めて聞くような、それこそ人間の赤ん坊が泣くような声で鳴き始めたのである。 「ナアアアアア……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」  すると、呼応するように車の影から、一戸建ての庭から、屋根の上から、次々別の猫の声が響き始めた。そろり、そろりと道路へ出てくる別の猫たち。その猫たちが皆、殆ど同じ声で鳴きながら毛を逆立て始めたのである。  怒りを買った、のは明白だった。  否、これはきっかけでしかなかったのかもしれない。自分達に向かって(今まではぶつけていないとはいえ)石を投げてくる子供達に対して、ずっと憎悪をため込んでいたのかもしれないと。 「や、やばい、逃げろ!」  矢田が言った。僕も、友達二人も同意した。  石を直接ぶつけてしまったのは申し訳ないが、そのつもりでやったわけではない。悪意があったわけでもない。しかし、猫たちにはそんなこと知る由もなかったということだろう。  僕たちは、あの場所から逃げ出した。猫達は住宅地を出ればもう追いかけてこなかったが、それでも心臓が破裂しそうなほどバクバクしていた。 「暫く、あそこに近づくのはやめよう。ゲームは当分中止だ」 「そ、そうだね、うん」  誰も、矢田の言葉に反対しなかった。何かとてもやばいことをしてしまった気がする――そう思ったのは、僕だけではなかっただろうから。
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