13.tredici

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「私が把握している学費とは、かなり開きがあるようですが」 「なんだと! 調べたのか?」  声を荒げる父に対し、薫さんは眉一つ動かさない。父のほうが遥かに年を重ねているのに、経験はきっと薫さんのほうが遥かに豊かなのだ。 「もちろん。慰謝料を寄越せ、とおっしゃった貴方に尋ねましたよね。基準にしたいのでどのくらい用意すればいいか。今まで注ぎ込んだ学費分くらいは用意して貰わないと。それが返事でした。ですので調べました。全て」  冷淡に言い放つ薫さんに、父はワナワナと震えている。それでも負けじと声を張り上げた。 「生意気な! じゃあ言ってみろ。いったい幾らだったんだ!」 「最初に申し上げますが、中学までは保護者の義務です。私がお支払いする義理はありません。高校は地元の公立で授業料は無償でした。他の費用はおおよそ五十万ほどでしょう」  薫さんはただ淡々と、台本を読み上げるように話す。それを父は顔を赤くして聞いていた。 「専門学校は二年間。仕送り分と合わせ多く見積もっても四百万。どうですか? 間違っているなら教えてください」  薫さんがそう言って顔を向けた先には母がいた。急に尋ねられ顔を強張らせているが、静かに「その通りです」と答えた。 「なっ、ならそれで手を打とうじゃないか。四百五十万。嫁にやるには安い額だが仕方ない」  威張るように踏ん反り返り父は言う。 「まだ話は終わっていません。しかし、貴方は本当に何もご存知ないのですか?」  私が尋ねたかったことを薫さんが代わりに尋ねてくれる。  訝しそうに顔を顰めると「何のことだ?」と父は言った。 「専門学校の費用。その大半を彼女が支払っています。親子ローンが組まれていましたから。ですので、実際あなた方が出した額は先程申し上げた額の半分にも満たない」 「バカなことを言うな! そんなはずはない!」  父は勢いよく手で机を叩き体を起こすと薫さんを見下ろした。 「ではお聞きしますが、貴方は自分の年商がどれくらいなのかご存知ですか? 全て奥様に任せきり。そうではないですか?」  畳み掛けるように質問を重ねる薫さんに、父は苦い表情になった。 「喧しい! お前みたいな若造に何がわかる! 亜夜! お前は騙されてるんだ。こいつはこんな端金さえ出したくないんだ。そうだろう!」  痛いところを突かれたからか父は喚き立てる。都合が悪くなるといつもそうだった。そして私は、それが不快で従っていただけだ。  けれど、今は違う。言いなりになる必要なんてないのだから。  
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