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「はじめっ!」
焦った愛美が面を打ってきた。
愛美の剣先を避けるまでもない。
ガラ空きの胴を、薙ぐだけだ。
「どおぉぉうー!!」
白い旗が一本を確定させる。
今の私に雑念は、ない。
私に芽生えているのは──。
自分の剣道。
これだけだ。
練習に裏打ちされた、自然に動ける身体。
考えるよりも、先に動く。
愛美の小手だの、面だのと、アレコレ考える必要はない。
私は私の剣道をしたいだけ。
私は私に勝ちたいだけ。
もう応援の声も聞こえなかった。
愛美の面ど真ん中を、剣先深く鋭く打ち切った。
「一本!!」
中央でそんきょをし、礼をして振り向くと、多香子が胴をタッチしてくる。
「ナイスファイト!瞬殺だね」
「ファイト!そっか……」
時間の感覚もなかった。
自分の場所に座り面を外すと、息が思いきり吐き出せた。
納得いく剣道が出来た事は、こんなにも嬉しいものなのか。
打突のスピードも、重さも、タイミングも、気合いも、全部揃った一本。
「忘れないようにしよう」
紅白試合は私達白チームが勝ち、飛び上がって喜んだ。
真由が私に飛びつきながら、ギュウギュウ抱きしめてくる。
「一樹ーー!!カッコよかったぁ!凄いよ、あの胴は!」
「ちょっ、汗がかかる!汗っ!」
戯れる私と真由に、鋭い声がかかった。
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