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「一樹!」 顧問が怖い顔で手招きしている。 恐る恐る近寄ると、背中をドンと叩かれた。 「はじめの面は一本だった。あれは綺麗に入っていた。一樹、強くなったな?練習は裏切らないだろう?」 「……はいっ!」 なぜだか涙が溢れた。 先輩達に囲まれて、沢山褒められまた泣いた。 この日道場は、いつまでもオレンジ色に輝いていた。 「お前、ホント波があるよな?」 市野田の高瀬は、私の卵焼きを奪いながら呆れ顔だ。 あれから市野田と何度か練習試合をするうちに、高瀬とは軽口を叩けるくらい仲良くなった。 今も、午後から個人戦に出場する私に、ちょっかいを出しに来たのだ。 しかも、お弁当のおかずを奪われ中。 「仕方ないじゃん。うちは二年生が充実してるから」 年末の大会で、私はレギュラーにはなれなかった。 個人戦での出場だ。 「強いのか弱いのか、わからない奴だなぁ」 「だよね……」 高瀬は知らない。 私があの決勝戦で、高瀬の技に惚れた事を。 高瀬を目標に、もう一度剣道と向き合えたのを。 「レギュラー入りしても、高瀬とは戦えないじゃん」 「えっ!?お前、俺と戦う気?怖い、怖い〜」 練習では竹刀を交えたけど、ボロボロにやられた。 そこまでやるか?くらいに。 女でも手を抜かない、高瀬らしくて嬉しかったけど。
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