7人が本棚に入れています
本棚に追加
「一樹!」
顧問が怖い顔で手招きしている。
恐る恐る近寄ると、背中をドンと叩かれた。
「はじめの面は一本だった。あれは綺麗に入っていた。一樹、強くなったな?練習は裏切らないだろう?」
「……はいっ!」
なぜだか涙が溢れた。
先輩達に囲まれて、沢山褒められまた泣いた。
この日道場は、いつまでもオレンジ色に輝いていた。
「お前、ホント波があるよな?」
市野田の高瀬は、私の卵焼きを奪いながら呆れ顔だ。
あれから市野田と何度か練習試合をするうちに、高瀬とは軽口を叩けるくらい仲良くなった。
今も、午後から個人戦に出場する私に、ちょっかいを出しに来たのだ。
しかも、お弁当のおかずを奪われ中。
「仕方ないじゃん。うちは二年生が充実してるから」
年末の大会で、私はレギュラーにはなれなかった。
個人戦での出場だ。
「強いのか弱いのか、わからない奴だなぁ」
「だよね……」
高瀬は知らない。
私があの決勝戦で、高瀬の技に惚れた事を。
高瀬を目標に、もう一度剣道と向き合えたのを。
「レギュラー入りしても、高瀬とは戦えないじゃん」
「えっ!?お前、俺と戦う気?怖い、怖い〜」
練習では竹刀を交えたけど、ボロボロにやられた。
そこまでやるか?くらいに。
女でも手を抜かない、高瀬らしくて嬉しかったけど。
最初のコメントを投稿しよう!