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「一樹先輩!お願いしていいですか?」
「うん。面をつけるから待ってね」
切り返し、追い込み、技の確認と、丁寧にこなしていく。
先鋒を任される咲の気迫が、打突の強さにあらわれていた。
いつの間にか隣では、多香子と愛美が切り返しを始めていた。
体育館の床は、道場とは違って固い。
咲の剥がれかけている踵のサポーターが気になり、マネージャーに巻き直して貰うように告げた時、愛美が割って入ってきた。
「咲、試合前だからキチンと練習しよう。お願いします!」
先輩にお願いしますと言われれば、後輩である咲は断われない。
「一樹先輩、ありがとうございました!後で巻き直しますね!」
愛美と咲が切り返しを始め、私はマネージャーに咲のサポーターを巻き直すようにお願いし、多香子の相手になる。
スピード感溢れる切り返しと、技のキレが良い。
ひとしきり汗をかいて、並んで面を外す。
「一樹、辞めないでよ」
外した防具を抱えた多香子が、去り際にそう言った。
夏に先輩達が引退したら、多分多香子が新キャプテンになるだろう。
──私?居てもいなくても、何も変わらないよ。
新しいキャプテンと新しいレギュラーメンバー。
絶対にレギュラーを取りたい気持ちが湧いてこない。
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