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先鋒、引き分け。
次鋒、浪川の二本勝ち。
中堅、浪川の一本勝ち。
副将戦で二本勝ちをしなければ、市野田の勝ちはない。
「市野田の副将って誰ですか?」
「高瀬。二年生だ」
さっきの人かと、そんきょをしている副将高瀬を眺める。
はじめ、の声がかかると、そのまま高瀬が飛び込んだ。
突きのような面が、鋭く決まる。
目の覚めるような先制攻撃に、体育館が一瞬静かになった。
「惜しい!」
副審が旗をクロスさせながら振っていた。
一本ではない。
浪川側から声が飛ぶ。
「足を動かせ!」
「気合い入れろ!」
再び中央で剣先を合わせる。
「はじめっ!」
今度はお返しとばかりに、浪川の副将が飛び込んだ。
水の膜を切り裂くように、高瀬の竹刀が胴を薙ぐ。
「どおぉぉぁあっ!!」
心技体、全て揃った美しい胴に、白い旗が勢いよく上がった。
「一本!」
初めて剣道の試合を見たあの日、その美しさに一目惚れした私。
忘れてた……。
剣道はこんなに美しい武道なのだと。
市野田は負けてしまったけど、私にとってそれはどうでもよくて。
あの高瀬の試合が、覆っていた何かを弾き飛ばしてくれたように感じる。
芽生えたのはなんだろう。
わからない。
その答えを確かめる為に、私は再び練習に没頭した。
長かった髪はバッサリと切った。
手首が弱いからと使っていた、軽い竹刀を重い竹刀に変えた。
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