５mm違いの戦闘服

この店に来て2年。そろそろ他の店舗も経験したい。
この会社は浅草橋に本社があるワイシャツメーカーの老舗。取引先は百貨店が主だったが、ここ数年はモールへのショップ展開も拡大していた。昨今はレディースにも力を入れている。

「すみません、このシャツの僕のサイズありますか？」
「はい、いらっしゃいませ。サイズはおわかりですか？」
「すみません、ワイシャツのサイズってあんまし…」
「わかりました、お測り致します」

私はベルトにかけたメジャーをお客様の首に回した。肩幅、裄丈、胸回り、胴回り。もう何百、何千と測って来た。

「へぇ、ワイシャツってこんなに測るんだ」
20才そこそこの若者が驚いていた。
「はい……お客様は39の84のA体でございます」
「えっ？A体って何？」
「簡単に申し上げますと、お首回りに対してお腹が出てるか出てないかです」
この説明も何百回としてきた。

「へえ、何も知らなかった、ありがとう！」

「こちらこそ、ありがとうございます」
私は丁寧に頭を下げ、お客様を見送った。
再び店内を見渡し小さいため息をついた。とりあえず、出来る事からしよう。そう思い店のディスプレイを変えながら接客をして１日が過ぎた。