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季節は変わり夏が近づいた。
あの女性に長袖のワイシャツを買っていただいてからもう1ヶ月が過ぎた。入荷した半袖を出しながら、今度はどれをお勧めしようかと考えていた。ワイシャツが主役。その言葉が嬉しくて忘れられずにいた。
「もしもし、は、はぃ~っ?臼井真央を今からですか?」
井尻さんが電話で話している。私の事らしい。怪訝な顔で電話を切り、私を呼んだ。
「真央ちゃん、今から急いで本社に来いって」
「えっ!今から?」
「代わりを向かわせたから直ぐにだって」
私はモールのバックルームを走った。何なんだろう……。
***
浅草橋本社
人事部長が待っていた。
「臼井君、急で悪いが百貨店部門に異動だ。丸越デパートのオーダーサロンだ」
「はい……」
「どうした?何か不満か?これは辞令だ従ってもらわねばならない」
「それはわかってますが、私に出来るでしょうか?オーダーって、採寸もですよね?」
「それは心配ない、川名君と言うベテラン女性がいる。君も研修で世話になったろ?」
「はい、わかりました。頑張ります」
重たい気持ちで本社の廊下を歩いていると、同期で人事に配属になった裕子がいた。
「真央、凄いじゃん!大抜てきだよ?でもなぁ、あそこには川名女史がいるからねぇ……まっ気を付けて」
ったく人ごとだと思って…。仕方ないか、人ごとと書いて人事だからな、と思いながら重い足取りで店に戻った。
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