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序章
「原ーっ!」
その鏑矢のような怒号は東京驛を震わせながら老宰相の心臓に向かって行進した。宰相はその上気した咆哮に穿たれた胸を抑えながら崩れるように後退った。咆哮する剣士は虎の牙ほどもある脇差をうっとりと輝かせながら蹌踉めく宰相に突進した。一刹那、宰相の柔らかい貴族的な肉が避け、その間隙に恥じらう林檎のような心臓を貫くのを男は感じとった。そして、宰相は恐懼の表情を浮かべながら力なく地面へと墜落した。林檎は飛散し、そこから乙女の唇のような血潮が身体の堀を決壊し、男の袖を穢したとき、この男はちっぽけな右翼的義侠心を激高させて叫んだ。
「立てーっ!立って俺と闘えーっ!」
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