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小林様を見送り、私は一息つく。
お茶を飲みたいな。
肩を回しながら立ち上がって店の奥のキッチンに転移し、指をすいと動かして念力で食器棚から北欧風デザインのマグカップを取り出す。
茶葉はどこ?
閉じられた戸棚を透視してみたけれど見つからない。
冷蔵庫?
またもや透視したが、ない。
透視を切り上げて、一旦お湯を沸かそうと後ろを振り向こうとしたそのときー
がばっと後ろから抱き締められた。
「また何か失くしたのか。今日も阿呆で可愛いな、紗奈々」
「わっ…れ、蓮くん!?」
「茶葉なら昨日、食器棚に突っ込んでただろ。マグカップと近い方が便利〜って」
変な声で私の真似をしないで。
「午前中のレンタル返却は終わったか?」
「う、うん。状態に問題はなかったよ。でもまだ残留思念は視てないの」
「わかった、早めに頼む。あれは人気商品だからな」
「うん」
っていうか、
「放してっ…」
身を捩って腕から逃れようとするが、ぎゅう、とより強く抱き締められた。
もはや抱き潰されそう。
いや、変な意味じゃなくて。
「初めてじゃないくせに。何照れてんだよ」
喉の奥でくつくつと笑いながら蓮くんー蓮司はのたまった。
「お茶っ。淹れたいの!それに私が触られるの苦手なこと、知ってるくせに」
謎に心拍数が上がってきた。
蓮司が後ろから私の顔を覗き込む。
顔が近い。
長い睫毛にぱっちり二重の目が私を見つめた。
「でも俺のことだけは読めないんだろ?」
そうなのだ。
転移も念力も透視も、残留思念を視ることも読心もできる、万能超能力者の私だけれどー
この幼馴染、蓮司にだけは、普通の人になってしまうのだ。
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