彼のことだけわかりません

2/2
前へ
/9ページ
次へ
小林様を見送り、私は一息つく。 お茶を飲みたいな。 肩を回しながら立ち上がって店の奥のキッチンにし、指をすいと動かしてで食器棚から北欧風デザインのマグカップを取り出す。 茶葉はどこ? 閉じられた戸棚をしてみたけれど見つからない。 冷蔵庫? またもや透視したが、ない。 透視を切り上げて、一旦お湯を沸かそうと後ろを振り向こうとしたそのときー がばっと後ろから抱き締められた。 「また何か失くしたのか。今日も阿呆で可愛いな、紗奈々(さなな)」 「わっ…れ、(れん)くん!?」 「茶葉なら昨日、食器棚に突っ込んでただろ。マグカップと近い方が便利〜って」 変な声で私の真似をしないで。 「午前中のレンタル返却は終わったか?」 「う、うん。状態に問題はなかったよ。でもまだ残留思念はないの」 「わかった、早めに頼む。あれは人気商品だからな」 「うん」 っていうか、 「放してっ…」 身を捩って腕から逃れようとするが、ぎゅう、とより強く抱き締められた。 もはや抱き潰されそう。 いや、変な意味じゃなくて。 「初めてじゃないくせに。何照れてんだよ」 喉の奥でくつくつと笑いながら蓮くんー蓮司(れんじ)はのたまった。 「お茶っ。淹れたいの!それに私が触られるの苦手なこと、知ってるくせに」 謎に心拍数が上がってきた。 蓮司が後ろから私の顔を覗き込む。 顔が近い。 長い睫毛にぱっちり二重の目が私を見つめた。 「でも俺のことだけはんだろ?」 そうなのだ。 転移(テレポート)念力(サイコキネシス)も透視も、残留思念を視ること(サイコメトリ)読心(テレパシー)もできる、万能超能力者の私だけれどー この幼馴染、蓮司にだけは、普通の人になってしまうのだ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加