第五章 山桜の頃 五

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「ここに住む許可を、取っておかないと……」「そうですね……それと、俺が住む理由を考えないと…………」  あれこれ、考える事が多い。  風呂から出ると、夕食を済ませてあると言ったのに、麻野が焼肉を用意していた。 「麻野さん…………」 「あ、俺用だよ!」  一人用の量ではない。 「せっかく桜葉が帰って来たのだから、一緒に飲もう。明日は、仕事が休みだろう」 「休みです」  麻野は俺がトラックを運転している事に対し、何も言わない。でも、俺が自分の過去を探していると気付いていた。  俺が席に着くと、麻野は古いアルバムを持ってきて、肉の横に置いた。 「これが、桜葉を見つけた時のミゼット」 「ボロボロですね…………」  しかし重要な事は、ミゼットが埋まっていた事だ。 「これが、持ち主の夫婦が、俺が来る前にミゼットを教えてくれた写真」  ミゼットが売れるのか確認した時の写真と、俺が見つかった時の写真を見比べてみると、茣蓙の位置が全く同じであった。 「同じ…………」  俺を埋めて、全く同じ位置に茣蓙を戻したのだ。 「こういう習慣を持っている職業は…………  それは、諜報員だと言いかけて、白蓮はビールを飲んで誤魔化した。 「しかし、白蓮と桜葉、二人がいると、何というのか…………おとぎの国だな」 「どこの国ですか?」  白蓮は、真面目に麻野の言葉を聞いていた。そして、絵本の世界だと理解した。
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