第五章 山桜の頃 五

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「白蓮、俺にも、変な記憶があって…………信じてくれなくていいけど…………」  桜が咲いていた。俺が泣きながら歩いていると、若い男性が来て、一緒に桜を見上げて泣いていた。俺は自分が泣いていたにも関わらず、男だったら泣いていたらダメだと説教した。そして、友人になった。  そして、その人の元で暮らし始めた。 「ああ、人質ですね。今の記憶ではなくて、過去ですよね?八田の所には人質の子供が来ていた記録があります」  それは隣国の武将の次男であったらしい。五才で人質に行き、そこで十五才まで過ごしていたようだ。 「俺は、家に戻っても、誰かに会いに行った。でも、会えずに泣いて帰った」  どうしても会わなくてはと思っていたが、その理由が分からない。 「何度も会いに行って、やっと会えたと思ったら、追い返された」  そして、次は山が燃えている光景で、急いで行かなくてはと馬に飛び乗る。 「負け戦だったのですよ。勢力的に、滅ぼされる運命だった。だから、巻き込まないようにしたのでしょう」  会いたくて、会いたくて、心が締め付けられてくる。 「…………桜の下にいたのは、とても可愛い子供でした。自分の子供は人質に差し出し、殺されていました。だから、この子も死ぬのかと……涙が出ました」  すると、その子供が手を伸ばしてきて、泣くな男だろと叱ってきたらしい。 「可愛い子供は、立派な少年に成長していった。しかも、とても利発で剣術にも優れ、ガキ大将のようになっていた……その姿を見た親が、後継ぎにしようとしました」  次男であったが、長男が病弱だったので、家に戻れる事になったらしい。 「手放したくなかった…………とても可愛い」  それに、八田を慕っていた。 「…………やはり、俺達は前世繋がりか…………」 「あっさり認めますね……」  思いだけ残って、生まれ変わってしまったのだろう。
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