第五章 山桜の頃 五

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「しかし、同じ年に生まれたいという願は叶ったようですが、こんなに離れていたのでは意味が無かったです」 「会うまでの時間が長かったという事か…………」  同じ年に生まれたいと願っても、一緒に生きたいとは願っていなかったせいだろう。  そして、切ない思いを確かめ合うよりも、今、目の前にある現実を片付けなければならない。どうにも俺達は、恋愛を後回しで生きる運命らしい。 「まあ、前世は……今はどうでもいい……後でゆっくり吟味する」 「そうですね。近くにエージェントがいそうで、こっちも本気ですよ」   白蓮は、荷物から通信機を取り出すと、仲間と連絡を取り合っていた。  どうして、今になって、俺の素性が問題になってしまったのだろう。すると白蓮が、俺の両親が研究している何かが、実用化されようとしているからではないかと推測した。 「研究者は、実用化という事を考えない生き物だよ。それは優れている程に、視野の狭さがある」  実用化というよりも、俺の姿で見つかった確率の方が高い。エキストラのバイトもしていたので、俺も隠れていなかった。  しかし、今まで何も無かったという事は、俺はそんなに重要視された子供では無かったのだろう。 「もしかして、俺は次男なのか?」 「そうです。長男も研究者です」  しかし、長男は親ほどの評価は受けていないらしい。 「桜葉は、お父様がご高齢になってからの子供で、長男と十ニ歳くらい年が離れていますよ」  それでは俺の両親は、そろそろ老衰で死んでしまうのではないのか。 「お兄さんは過保護で、弟の為に遊園地を借り切って、安全に遊ばせようとしたくらいだったと聞きます」  兄は研究者としての評価は低かったが、企業して成功していた。 「兄?両親はどうしたの?」 「あまり、子供には興味のない人のようです」  だから、兄が過保護に育てていた。
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