第五章 山桜の頃 五

7/11
前へ
/155ページ
次へ
「厳重な警備があった。しかし、気付いた時には、子供が部屋から消えていた…………」 「そのまま、消えたまでも良かったのでは?」  子供に興味の無い親ならば、そのままいなくなってくれた方が良かったのではないのか。 「奪い返したと連絡があった後、音信不通になったと記録にあります」  前世と現在が、入り交ざって、思考が混乱してくる。だから、やはり、前世は考えない事にしておこう。 「何となく、状況が理解できてきた。つまりは、ここが襲われたのは、俺を狙ったわけだ」 「そうですね」  しかし、最初のブレーキの細工は、下手をすれば死んでいた。 「殺すという方法もあるのか……」 「それは、純粋な脅しでしょう。研究を止めなければ、お前も殺すというようなものです」  そんな厄介な連中が、俺の周囲にいるのは困る。 「どうしたら、又、隠れられるかな…………」 「そうですね。やはり、死んだ事にするのが、一番、早いのかもしれません」  相手が諜報員では、簡単に死んだ事には出来ないだろう。 「まあ、方法を考えましょう」  すっかり深夜になってしまい、俺も眠くなってきた。それは白蓮も同じようで、ウトウトとしていた。 「後は明日考えよう。おやすみ…………」 「おやすみなさい」  朝方、あれこれ夢を見ていた感じがするが、すっかり忘れて目を開けようとした時、急に思考が覚醒した。 「将利は?」  すると、電話が鳴っていて、麻野が取って会話していた。会話の内容からすると、将利が家に帰らなかったらしい。そこで、こっちに来ていないかの、確認の電話であった。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!

97人が本棚に入れています
本棚に追加