第五章 山桜の頃 五

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「白蓮、もしかして、将利、攫われているのではないのか?」 「幾ら何でも、桜葉と将利君?間違えないでしょう」  しかし、白蓮に連絡が入ると、間違えて誘拐された可能性が出てきた。 「間違いに気付いたら、殺される?」 「もう間違いに気づき、売り飛ばされる所でしたが……」  既に、そんな展開になっていたのか。 「どこに、将利はいる?取り返してくる」 「取引は、船の上ですよ…………」  車で行けない場所は、とても遠く感じる。 「遠いな……」  しかも、海の上は苦手な場所だ。何しろ海には道路がない。あんな広いだけの場所で、一つのポイントを探すのは、まるで、とてつもなく広い工事現場で迷子になったかのようだろう。考えただけでも不安になってくる。心なしか、想像しただけで心拍数が上がってきた。 「海が苦手ですか?」 「苦手だ…………車で行けない」  白蓮は、俺の言葉を聞き流し、将利の情報を探っていた。 「将利君は、裏組織の幹部に気に入られて、持ち帰りされたそうです…………」  すると、売られはしないようだ。しかし、安心は出来ない。何しろ、帰って来られない。 「どういう気に入られ方だろう……」 「愛人としてのようです」  俺は聞き返そうとしてから、かろうじて頷いた。人の趣味をとやかくいう必要はない。ありのままに捉えたほうが、先の展開がし易い。 「それで、俺と間違えた?」 「そうです。麻野さんと一緒にいたので、勘違いしたのでしょう」  俺と間違われて攫われ、気付いた犯人に売り飛ばされる所を、愛人として持ち帰りされるなど、将利も波乱に満ちている。 「…………説明できない」 「そうですね……………………」  勝巳には言えないので、このまま家出にしておこう。
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