第五章 山桜の頃 五

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 俺はギクリと反応してしまったが、白蓮は動揺せずに食事をしていた。 「しょうがない奴だな」  将利も、数日は帰って来ない事もあったので、まだそんなに心配されていない。出来れば、その間に見つけ出したい。 「誘拐とか、されていないといいな…………」 「お…………おお、大人ですよ…………」  しかし白蓮は、言葉を発すると、かなり動揺していたようだ。こんなに感情が表に出るのに、よく捜査官など目指したものだ。 「大人でも誘拐はあるだろう?」  どうして、誘拐に拘ったのか分からないが、麻野なりに心配しているのだろう。 「それは金持ちだからだろ?将利は金持ちか?」 「…………そ、そうだよね」  白蓮とは出会ったばかりだが、何故か信頼できる部分がある。嘘が下手だという面があるからかもしれない。 「白蓮、週末は又、あの山に登るぞ。だから、CGを見せて」 「いいですよ。山、稼いで買ってしまいたいですね」  話題を変えると、白蓮も持ち直して普通になってきた。  しかし、ミゼットが盗まれてしまったので、代わりの車を用意したい。そうしないと、麻野の資金繰りが苦しい。 「車も捜してこないと…………」 「一台、どこかで見た感じがします」  では、そこにも行ってみよう。  白蓮と話していると、麻野が俺と白蓮を交互に見ていた。 「桜葉が対等に話す友達を、初めて見たな……桜葉は、いつも、遠慮していて、本音を言わないのに……」 「白蓮に遠慮する理由が無いので」  そう言えば、俺は将利にも本音を言った事がない。だから、息が詰まってしまいそうな気分になったのかもしれない。
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