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人里離れた街道沿いに、貧しい母娘が住んでいた。
昼になると集落の方へ出て畑仕事を手伝って、その日その日をなんとか暮らしていた。
家の主人はとうの昔に病で死んでいたが、それでも主人が生きていた頃は貧しいながらも畑を持って親子三人仲睦まじく暮らしているように思われた。
ただ残された憐れな母娘ということよりも、この母娘の話をするとき真っ先に出ることが、見た人が目を背けるほどの醜い容姿のことだった。
何か病の跡なのか二人とも肌が爛れて浅黒く、母親の方は背が丸まって、歩いていても這っているかのようだった。年は五十くらいのはずだが、その姿は八十過ぎの老婆そのもので、その割にやたらと多い毛髪をなんとか一つに纏めているのだが、ほとんどの時、顔の半分ほどを白髪混じりの汚い髪が隠していた。口の中には異様に大きな前歯を一本だけ残して他の歯はない。歯が無いせいで萎んでシワだらけの口元は常に小刻みに揺れていた。
娘は十七になる。分厚い瞼の下の眼は小さく、薄く色の悪い唇は固く閉ざされ声を聞いた者はいなかった。そのせいで口が聞けないのではと噂されることもあった。ただ髪だけは黒々と艶やかでそれがかえって不気味さを際立たせた。
体は痩せて骸のようで、夜見た人は腰を抜かしたとか気を失ったとか。十七という年がここまで不似合いな姿もないであろうと思われた。
村人の中にはそんな母娘を不憫に思い、縁談を世話しようとする者もいたが相手があの娘となると誰も受けなかったので叶わなかった。母娘を気遣い声をかけてやる者もあったがろくに返事をしない。そのうち誰も関わろうとしなくなり、遠巻きに見ているだけとなった。
母親が亡くなれば娘は一人きりになってしまうが仕方がない。
そのうち娘もきっと、母親の様な老婆になって一人で死んでいくだろう。村の誰もがそう思っていた。
娘の腹が大きくなる迄は。
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