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 恋人が亡くなった。さっき、ついさっき。いや、実際はいつ亡くなったのかなんて分からない。けど確実に、彼は今この世に存在していない。高校一年の時から高校二年生の7月、今に至るまで付き合っていた人。昨日は学校が終わって、彼は方向が真逆の私と一緒に帰ると言った。初めてのことでもないので、特に驚くことも無く、二人で帰路を歩いた。去り際の顔も、言葉も、仕草もいつも通りだった。  そして今日、私は誰よりも早く教室についた。初めてだった。誰もいない静まり返った校舎内を一歩一歩、噛み締めるように歩いた。教室のドアを開けると、一番に目に飛び込んできたのは、宙に浮かぶ彼の姿だった。天井から下げられた麻縄は彼の首に巻きついて、彼の首に内出血を作っていた。教室には朝日が飽和しているのに、彼には重く暗い影がかかっていた。制服のままで、彼は私の机の真上で、息絶えたのだった。職員室に向かおうと、廊下へ出ようとした。そんな私の足をとめたのは、乱れた私の机。彼が足場にしたせいで、昨日帰る頃には綺麗に整列していた机がズレていた。私はもう一度教室へ戻って机を整列させた。列からはみ出た机は私にも、彼にも似合っていない。そう思ったから。感情の波が鼻の奥を、ツンと刺激した。彼を、否、彼の抜け殻を見上げる。彼の瞳は沈んでいた。死んでいるのに、生きている私と同じような瞳をしていた。 いや、逆か。私が生きているのに死んだ瞳をしているのだ。乾いた笑いが教室内に滲んだ。酷く喉が乾いていた。  この重大な事態に、勿論全学年休校。学校に来ていた生徒は私だけだったらしく、先生達は第1発見者の私を大いに心配し乍も、帰ることを言い渡された。その際、やけに冷静さを保っている私を先生達は揃いも揃って不気味そうに見ていた。その視線はまるで、嘘つきの人狼を見ているようだった。 学校を出る時、さっきの澄み渡った空がまるで幻想だったかのように、空は曇っていた。ポツリと、足元に水滴が落ちた。その後で聞こえた雨音に、私の嗚咽は吸い込まれた。 無数のパトカーや救急車が学校に到着していた。しかしサイレンの音は私の耳には届かなかった。  
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