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 聖アルシアバ王国の王族は、皆金の髪を持って生まれる。それはこの国では珍しい色ではなかったが、王国を代表する色として、貴色と呼ばれた。王家に生まれようとも、鮮やかな金の髪を持っていなければ、王族とは認められなかった。 ユスティティアは白銀の髪に赤い瞳を持って生まれたため、異色の王女と呼ばれた。彼女の存在は秘匿され、抹消された。古いしきたりにより異色の王族は不吉とされ、国から追放されることが決まっているのだ。 ユスティティアが十六の歳まで王宮にいられたのは、彼女の体の弱さが原因だった。  ユスティティアはただの異色の子ではなかった。日光に極端に弱く、日に当たれば肌は腫れあがり、高熱を出した。城の奥の、窓さえない部屋で暮らしたが、それでも頻繁に体調を崩した。ようやく馬車での旅に耐えられると判断されたのが、今年だったのである。  内側を黒い布で目張りした馬車の前に立っているのは、無感動な目をしたひとりの侍女であった。 「ユスティティアさま、極夜の町まで同行いたします。町に着きましたら私と馬車はすぐに王国に戻りますので、ご承知おきを」  高貴な者の名を呼ぶことは非礼とされる。この侍女が、ユスティティアのことを王族として認めていないことは明らかだった。 「はい、存じております。長い旅路、あなたと御者には苦労をかけますね」  ユスティティアは侍女の非礼を気にした様子もなく、穏やかな顔をしている。 馬車は、静かに走り出した。
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