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「幼馴染に恋心を芽生えさせるにはどうしたらいいと思う?」
昼休み、いつの間にか二三の机を囲んで一緒に食事をするようになっていた凪志美が売店で買ったサンドイッチをつまみながらぼやくように言った。
「幼馴染、もうそれだけでときめきワードじゃない? 私も幼馴染男子欲しいわ」
やはり同じように二三の机を囲んでお手軽バランス栄養食カロメ・エリートを齧ってはフルーツ牛乳で流し込んでいる秀子が続く。
「幼馴染はダメよ。戦う前から負けフラグ立ってるじゃない」
座席の主である二三がお手製弁当をつつきながら即座にダメ出しをした。
「ま、負けフラグ……」
最近ツインテから中分けデコ出しボブにイメチェンした凪志美が呻くように震えた声をあげる。
生まれたときから隣に住んでいる幼馴染の良成のことを好きらしいのだが、肝心の彼は同居している義理の姉に懸想しているらしく押しても押してもいまいち期待の反応を得られない。
「え、そお? 幼馴染がちょっとしたきっかけで意識し合ってーみたいなのけっこうあるじゃん?」
軽くパーマを当てたセミロングをヘアバンドで上げた秀子が異を唱えた。「そういうチャンス私も欲しいわー」と愚痴っぽく続ける彼女は入学当初狙っていた部活の先輩が今年の頭に退部して生徒会副会長へと華麗なる転身を遂げ、先日とうとう生徒会長とくっついてしまったので目下新しい恋を模索中だ。
「Web漫画の読み過ぎよ。そもそもアタック繰り返してる凪志美に見向きもしないんだからちょっとしたきっかけなんかじゃ足りないわ」
辛辣かつ詳細にダメ出しをした二三は手入れの行き届いた長髪を秀子以上にヘアバンドでピッチリと固定した隙のないオールバックに銀縁の丸眼鏡をかけている。彼女は丸眼鏡の向こうの鋭い視線を凪志美へ向けた。
「その髪型だって先に聞いてれば止めたんだけどね。義理のお姉さんと同じ髪型って、アンタは相手の土俵で戦って勝てるとでも思ったの?」
「ぐううううっ」
「やあ、立派なぐうの音が産まれたわねえ」
がっくりと肩を落とし呻く凪志美を見てストローで和やかにフルーツ牛乳をすする秀子。
ちなみに2-Cの二大デコと呼ばれていた二三と秀子は今や凪志美を加え三大デコと呼ばれているのだがまだ当事者の知るところではない。
「少なくとも私が見てきた限りでは、ライバルと同じことして勝てた恋愛はひとつもないわね。まあ私も偉そうに言えるようなことはできなかったけど」
「そっかあ、ないかあ……」
「っていうか二三ちゃん彼氏いるんだ?」
「え、うんまあね」
何気なくそこまで言ってから、二三はハッとした顔で視線をあげた。
当然、凪志美と秀子が呆気に取られた顔でじっと見ている。
二三には入学前から付き合いのある彼氏が他校にいたのだが、そういった興味を持たれることを疎んで秘密にしていたのだ。昨年は親しい友だちもおらず秀子や凪志美とも長い付き合いというわけではないため話題にもならなかったのだが、それ故に油断があったとも言えた。
「え……マジで」
「……初耳なんだけど?」
「い、今のは言葉のあやと言うか……」
なにか誤魔化さなくてはと思うがとっさに言葉が出てこない。それ以上に、ふたりの輝く瞳はいかなる誤魔化しも、そもそも聞いてくれそうになかった。
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