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レベッカの過去 2
それは10月―実りの季節の時期。
突然父と名乗る人が私とミラージュが住む小屋へ現れたのだった。
その日は朝から2人で収穫した小麦粉を使って台所でパンを作っていた時。突然小屋がガタガタと小刻みに揺れ始めた。
「あら…何でしょう?この地響きは」
ミラージュがパンを作る手を止めて、窓の方へ歩み寄り、外を覗き込むと慌てたように声を掛けてきた。
「た、大変ですっ!レベッカ様っ!大きな馬車がこちらへ向かって近づいてきていますっ!」
「ええっ?!馬車が?!」
粉まみれになった身体でミラージュの傍へ行き、足元に置いてあった木箱の上によじ登り、窓の外を見た私は驚いてしまった。
今までに見たこともないくらい、立派な馬車が2頭の馬に引かれてこちらへ向かってどんどん近づいてくる。
「どうしましょう?レベッカ様。迎え撃ちましょうか?」
レベッカが頭からドラゴンの角をニョキニョキ伸ばしながら私の方を振り向いた。
「駄目駄目。ミラージュ、落ち着いて。とりあえずその角を引っ込めて頂戴。あれはお城の馬車かもしれないわ」
「まあ…お城の?この小屋にですか?あ、そういえばこの間お手紙が入っていましたよね?」
ミラージュが思い出したかのように言う。
「ええ。あのお手紙に書いてあったのよ。近々、迎えをよこすって。それはこの事だったのかもしれないわ」
等と話している間に、とうとう馬車はこの小屋の前で止まった。
「あ、ほらほら、ミラージュ。早く頭の角をしまって」
「は、はい!レベッカ様っ!とりあえず、私が対応するのでレベッカ様は台所の奥に隠れていて下さい」
「分かったわ、ミラージュ」
何故隠れなければならないのか分からなかったが、私は返事をするとミラージュの言う通り、台所の棚の陰に隠れた。
そうこうしているうちに、小屋のドアがノックもなしに乱暴に開けられた。
「何だ?随分汚らしい小屋だな…本当にこんなところに住んでいるのか?」
失礼なことを言いながら小屋の中に足を踏み入れてきたのは口ひげを生やし、マントを羽織った偉そうな男だった。
「はい、間違いありません。末姫様はこの小屋に住んでらっしゃいます」
付き人と思われる男性が背後から声を掛けている。他にも数名の兵士らしき人物たちがいるが、彼らは無言で立っていた。
「失礼ですが、どちら様でいらっしゃいますか?」
ミラージュは角を隠すのが間に合わなかったのか、頭に頭巾をかぶった状態でマントを羽織った男性の前に立った。私は物陰からそっと様子を伺う。
「誰だ?お前は?」
口髭マント男は偉そうな態度でミラージュに対峙する。ミラージュ…耐えるのよ!貴女はプライドが高い神獣と呼ばれるドラゴンの化身だけど、この山小屋で暴れたら、私たちまた住む場所を失ってしまうからねっ?!
「は?いきなりノックもせずに、そのような偉そうな態度…一体貴方はどちら様ですか?」
しかし、ミラージュは喧嘩腰に対応する。だ、駄目だわ…あのままでは、ミラージュは…!!
「何だ?お前は。随分無礼な女だな…。このわしが誰か分からんのか?」
「ええ、知りませんわ。ご覧の通り、森の中に住んでいる田舎者ですので」
すると付き人らしき人物が口髭マント男に言う。
「陛下、この人物はどうやら末姫様の侍女と思われます。あのレイラ様の侍女だったそうです」
「何?レイラの…?言われて見ればそのような人物がいたような気がするな…」
「な、何ですって?!いたような気がする…?!」
ミラージュが怒りに震え始めた。ま、まずい…っ!私は慌てて台所から姿を現した。
「あ、あの…どちら様ですか?」
そしてわざとオドオドした様子で口髭マント男を見上げる。
「おおっ!お前がレベッカか?」
「はい、そうです」
頷くて、口髭マント男が笑みを浮かべて私に言う。
「そうか…お前がわしの娘のレベッカだな?よし、今から城へ向かうぞ?今日からお前は城で暮らすのだ」
こうして私は有無を言わさず、城へ連れて行かれた。勿論ミラージュも一緒に。
この時の私は何故城へ連れて行かれることになったのか…知る由も無かった―。
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