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序章
少年は、岩肌に身を削られながら、岩壁を滑り落ちていた。地面に接している皮膚という皮膚が摩擦に討ち負けて、擦りむけていく。腹が、胸が、腕が、膝が、表皮を剥がされ体が鮮血に染まっていった。
「ああああああああぁぁぁ!!!」
激痛が、全身を駆け巡る。容赦のない痛みに、自然と叫び声が溢れ出る。少年、タスクの体は山から突出した岩に激突し、やがて中腹にある崖に、乱暴に投げ出され、動きが止まった。
「うぅ……」
タスクの体は大の字となって、地面に倒れ伏した。仰向けになったのが救いで、顔をあげなくても周りの様子が見渡せる。今しがた、自分が落ちてきた岩肌には、血の筋が出来ている。
死を覚悟した。今も、それとは隣り合わせだ。だが、生きている。それが風前のものであったとしても、タスクの意識はまだこの世に存在している。
タスクが唯一身につけている純白の下衣は、土や血の色に染まり、ひどく汚れている。そこから伸びる足も、上肢も、戦闘や訓練の賜物でことごとく引き締まっているというのに、今は力が全く入らず、弛緩して、指の先ひとつも動かせないでいた。
「人の、子よ」
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