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「貴様も焼暴士の端くれなら、その程度の事など分かっておろう」
「……返す言葉もありません」
ここでもし、フィルトが「そんなことはありません。俺は絶対に、ラヨルの長を討ちます」と、声高らかに宣言していたとしたら、コトは彼との師弟関係を勘当していただろう。「出来ぬことは口にするな」「己の力量を知れ」とは、コトが弟子たちに口を酸っぱくして伝えている教えであった。
「焼暴士」とは、イョウラを駆使して、ラヨルの民と闘う者達の総称のことだ。イョウラは、人ならざる種族、ラヨルの操る邪術である「ノーラ」に対抗できる唯一の手段だ。ノーラで繰り出される炎は、人間が操る炎とは違い、水などでは消えない。
この世界に生きる生物の中で、人間ほど生存本能に忠実な種族はいないだろう。かつては成す術もなかったノーラに対抗すべく、焼暴士として生きる者を選別し、イョウラを生み出したのは、誰あろう人間なのだから。ただし、そこに数多の犠牲と時間の積み重ねがあったということは、他ならない事実だ。
「いつ何時、ラヨルとの一戦があるか分からないのだ。己の感情にかまけて、闘いに万全を期せない状況を、自ら作るでない」
「……はい」
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