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確かに長い間、雨の中で砂袋を打っていたから、フィルトの体力はかなり消耗していた。タスクの件で動揺を隠せずに、ここ数日、ずっと心がざわついているのも事実だった。
「師匠!」
言葉少なに立ち去ろうとした師の背中に呼びかける。踵を返しかけたコトの足が止まり、その眼差しが再びフィルトを見据えた。
「……いえ、何でもありません」
コトの鋭い眼光に気圧され、フィルトは口籠った。俯くと、顎から雨水が滴り落ちて、裸の胸に流れ落ちる。コトはフンと鼻を鳴らすと、そのまま立ち去っていった。
フィルトはしばらくコトの後ろ姿を見送っていたが、やがてその体躯が膝から崩れ落ち、うつ伏せに地面に倒れ伏した。雨に濡れそぼったぬかるみが、フィルトの身体を汚す。空から落ちてくる豪雨は止む気配をみせず、冷え切ったフィルトの身体をますます濡らしていく。じんじんと痛む拳をぎゅっと握り締め、四肢を地面に投げ出したまま、彼はそっと意識を手放した。
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