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声がした。それと同時に、タスクの頭のすぐ横に、何者かが立ったのが分かった。タスクは、目だけを動かして、その方向を見る。そして、身の毛もよだつ思いが、タスクの全身を襲った。
「主がこの、ラヨルの長まで辿り着いたことは、賞賛に値する。だが、いまの主独りでは、我には勝てぬ。己の非力を嘆くがよい」
それは、声も形も、タスクよりも幼い子供の姿をしていた。黒い装束を身にまとい、フードの隙間から青い目を光らせている。時折吹きつける冷たい風に、裾がひらひらとはためいていた。
「マユル……ハァ……ハァ……イホミ……モトイニ……は……オレが……ぜった……がああっ!!!」
タスクの目が見開かれる。装束の中から、小さな腕が伸びてきて、タスクの心臓の辺りの擦り傷を抉ったからだった。
「気安く、我が名を口にするな。弁えよ」
ラヨルの長、マユルはそう言って、タスクの体から指を引き抜いた。
「主が妄言を宣うのは勝手だが、我を討たぬ限り、主らのもとにイホミ・モトイニが渡ることは無い。この仮初の姿である我にすら勝てぬ主には、到底成し得ぬ所業であろう」
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