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第一話
藤堂誠はあまり仕事熱心ではない。だがこれといって不満があるわけでも無い。
趣味の延長で選んだシステムエンジニア職は、趣味なだけあってそこまで高度なことはできないがそれなりのことはできるので給料もそれなりの額を貰っている。上司も同僚もそれなりに良い人たちだ。
それなりの人生をゆるゆると生きていたらあっという間に二十代が終わりを告げ、三十代に足を突っ込んでから二年が経った。
周りの同年代には結婚している者も多く、飲み会になるとうちの子自慢が始まるのだ。
「かわいー!もうすぐ二歳でしたっけ?」
「初めてで女の子なんて可愛いくて仕方ないでしょ」
「はい。仕事なんてやってられませんよ」
「それ仕事の飲み会で言っちゃう?」
「あ~、つい本音が」
「藤堂君は結婚願望あるの?子供欲しいとか」
「子供は好きだけど結婚はなあ……」
「じゃあ子持ちと結婚しろ。それか養子」
「別に無理して育てたいわけじゃないし」
何度この話をすれば気が済むんだろうか。いや、恋人すらいない誠も会話に入れるようにという配慮なんだろうか。
だとしたら誠にとっては余計なお世話だ。誠は会社の金で飲める打ち上げだから来ているだけで、仕事が終わってまで同僚と過ごしたくないというのが本音だ。これを乗り切り二軒目(自腹)に行くか行かないかという話になったら誠は帰宅一択である。
こうして、楽しくないわけではないが楽しいとも言い難いそれなりの木曜日が終わった。
終わるはずだった。吸血鬼兄弟にさえ出会わなければ。
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