82人が本棚に入れています
本棚に追加
ホームセンターでお互いの携帯番号を交換してから幾日、、、
と思っていたらその日の晩には早速棟梁から電話がかかってきてかなり驚いた。
本音か建て前か気の向いた時のきまぐれか、で電話が来ると思っていたので、流石にその日の電話は動揺した。
「あっ、はい、高橋です。棟梁ですよね?」
「あーー、良かった。ほんまに繋がったぁ!」
(え?どういう事?そりゃ繋がるでしょ、、)
「いやぁ、勢いで言うてもたからほんまに電話番号教えて貰える思てなかったから、もしかしら繋がらんか思てたわ。」
(あぁ、そういう事かぁ、、でも番号交換して出ないってのってありなの?!)
「繋がりたくなかったら番号教えてませんよ(笑)」私は少し苦笑した。何だ?棟梁は以外と可愛いのか?
「おぉ、ほんで早速やけどな、真由、明日仕事来れるか?」
(え?いきなり真由?、、で?いきなり仕事??あれれれ?)
急展開!何か色々、、突っ込みどころは多いが棟梁に圧倒され、結局私は明日の仕事を了承した。
こんな感じで私の【大工手伝い】がスタートした。
まさか、暇潰し、興味本位、一回だけ、がこれからの私の生活がガラッと変わるとはこの時は微塵も思っていなかった。
当日の朝は八時に事務所入りと言われ、事務所に行くと、これまた棟梁に事務的に
「とりあえず作業服持ってへんやろ?今日はこれ着て、着替えたら行くで。」と作業服【初めてのニッカポッカ】に着替えた。
棟梁のトラックに相乗りし仕事現場へ到着。
中古一戸建ての前に停まった。
「はい、これ地下足袋な、サイズ分からんかったからとりあえず一番小さいのん買うてきたわ。」とこれまた初めての地下足袋を渡され、四苦八苦とコハゼをはめて、やっと私も職人さん風になった。
はてさて、大工さんに付いてきたものの私に何の仕事が出来るのか?
大工さんって、トンカチとか、釘とか使って家を作るんだよね?【イメージ犬小屋】位の知識しかない私は見た目は【職人風】になったとはいえ、まるでこれからの事がちんぷんかんぷんだった。
どうやら今日のお仕事もどうやらリフォームっぽい。
ただ我が家とは違い空き家で何にもなく、ただ多分途中だと思われる壁や天井の破壊中の残骸が散らばっていた。
「解体の続きや。とりあえず真由はその土嚢にそのボードのガラを片付けてくれや。
それから釘仕舞してあっちの部屋にまとめといてくれ。」
ほぇ?専門用語?初めて聞く言葉ばかり、、
とは言え何となく言いたい事は分かる。所詮あるものは知れてるし片付けろという事は分かる。
10時とお昼、15時の休憩以外終業17時まで私は何とか仕事をした。
休憩以外は基本仕事用語以外無駄話をしない。私の相手は殆ど残材ばかり。
体力的にはきつかったけどつまらない人間関係の話やプライバシーに突っ込んでくる余計な話をしない分、精神的にはかなり楽だった。達成感もあった。
15分の休憩時間も棟梁は空を見ながらタバコを吸う以外殆ど喋る事はなかった。
それは余計に私を気楽にさせた。あれこれ聞かれたりするのは苦手だ。
とはいえ、【あの話】はしたい。聞きたい。
結局初日は棟梁は解体。私は本当に掃除。で仕事は終わった。
帰りのトラックの中で棟梁が
「助かったわ、ほんま。明日からも暫くどないや?わしは来て欲しいねんけど。」
私は久しぶりに力仕事をした分少し悩んだ。
しかもこれは毎日続けられる本業には出来ない。だから私は言った。
「明日は、、ちょっと、、」
余りなぁなぁになって近づき過ぎると断る事が難しくなる。あえて、断ってみる。お仕事も掃除ばかりとは限らないし。
でも今日の仕事自体は嫌ではなかったのは事実だ。嫌なら「やっぱり無理です。」と私は言う。そこまでお人好しではないしこれで棟梁との縁が切れてもそれはそれだと思っていた。
気のせいは気のせいのままにしておくと、何事もなかった事になる。
断りを入れた時の棟梁の表情が少し変わった。なんというか、、驚き?がっかり?わからない。でも少し違った。
「そうかぁ、、しゃぁないな。」
と呟いたら事務所に着くまでまた無口モードに戻った。
事務所に戻って着替えて作業服を返す時、
「真由、携帯番号変えんなよ。」と棟梁が言った。
携帯番号というのはそんなにコロコロ変えるものではないと思うのだが!?
たまに棟梁は突拍子のない事を言う。
そもそも主語がないのだ。
「え?あ、はい。」
作業服を返す私の手を握って
「絶対番号変えんなよ?」
と始めてみる必死の形相だった。
(どういう意味??)
私はますます混乱した。
最初のコメントを投稿しよう!