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私が大工の手伝いをするまでにそんなに時間はかからなった。
後から知ったが、元々一人親方の棟梁は本来人見知りが激しく、何人弟子を雇っても必ず途中で辞めていくそうだ。
まぁ確かに無口だし顔怖いし、口調は乱暴で声がデカイ。当然職人気質なりの厳しさを持った人だった。
確かになかなかこういう人にすぐなつける人はそういないだろうなと思った。
当時私は休職中だったし、もうそもそも人と関わる仕事はしたくなかった。
そんな時本当に偶然ホームセンターでたまたま作業服姿の棟梁にあった。
どうやら仕事で使う道具を買いに来たらしい。私は新しくリフォームされた部屋のカーテンを買いに来ていた。
あの手を繋いだ困惑の日から二週間だった。
私はあの時の結局何事もなく帰った棟梁の事が気になっていたので彼に会った時はかなり戸惑った。先に声をかけてきたのは棟梁だった。
「おぅ!久しぶりやな、元気にしとったか?」
今日は現場が暑かったのか頭にタオルを巻いて右耳には鉛筆がささったままだった。
「あ、あぁ、はい。お久しぶりです。この間はお世話になりました。
お仕事ですか?」
とりあえず自然を装い言葉を返す。
「おぉ、せやねんコンクリビスなくなっての、急遽買いに来てん。」
こてこての関西訛りは相変わらずだったが、我が家をリフォームして貰っていた時にはそんなに会話をしなかったから今まであまり気にしていなかった関西弁が余計キツく感じ、関西人ではない私としては、心の中で【吉本新喜劇だ、、】と少し思っていたりした。
「そや!あんた、名前なんて言うんや?」
と呆けてた私に棟梁は続けた。
「工事中ずっと現場おったけど、仕事してへんのかいな?
なぁ?どや?掃除だけでもええからうち暇潰しに仕事来てくれへんか?」
え?え?ちょっと待って?何いきなり!?
「ええっとぉ、、名前は真由です。高橋真由。」
「で、、え?仕事、、?お掃除ですか?」
いきなり、いきなりの怒濤の質問と突然のスカウト、、焦らずにはいられない。
何故ならまさか棟梁が私の名前を聞きたがる程興味を持ってくれてたなんて思いもしなかったし、いくら掃除って言っても大工さんの仕事場、、力仕事はとてもじゃないけど無理だ。
でも存在を覚えていてくれていた事は素直に嬉しかった。
「そうか、真由って言うんか、ほら、あんたえらい現場興味持って見といたやろ?
掃除言うてもそんな大層な事ないねん、ほんま時間あったら一回来てくれや。」
確かにあの見た事もない、きっと触る事さえない機械や材料。それになんといっても職人さんの無駄のない職人技の美しさはもう一度生で見れるなら見てみたい。
それに、、、、あの握った手の意味、、、
いや、、酔っぱらってたからだ、私の勘違いかも知れない。
でも、、真相はやはり分からない。
今目の前にいる棟梁は何の動揺もない普通の表情だ。うん。きっと、勘違いなんだ。
じゃあ、もう一度位現場見てみたいな、、
そっちの気持ちを優先した。
「私でお役にたてるなら、、毎日暇してますし(半笑)
お見立て通り私今求職中で、、逆に助かります。でも一度行って無理なら無理って言いますね。ご迷惑になるし。」
私はほんとにたんなる暇潰し、興味本位、一度だけ。
そんなつもりで誘いをOKした。
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