82人が本棚に入れています
本棚に追加
私は大工さんの手元【下っ端お手伝い】をしている。
勿論師匠は当たり前だが家だって建てられるし古民家の作りだって熟知している。
私が大工に弟子入りしたのは些細なきっかけだった。
会社の人間関係に疲れてうつ病を発症した時拾ってくれたのが、今の棟梁【師匠】だった。
出会いは、たまたま我が家をリフォームをお願いした事に始まる。
いつも家にいる私達にいつも大きな声で挨拶してきて、ただ独りで黙々と仕事をする。
大がかりなリフォームだったので、私はその棟梁の仕事ぶりを常に見ていた。
「材料は文句言わへんねや。ちゃんと切ってやればちゃんと応える。」
「カンナがけもひとつでもな、木が喋ってくれるねん。」
不思議と私はその棟梁の出来上がった美しい仕事動作と普通の女子なら死ぬまで見る事も触る事もない機械や材料に興味津々になった。そして何よりも大きかったのは仕事相手が【木】であって【人】ではないという所に大きな魅力を感じた。
とはいえ大工さんというのは職人さん。男だらけで怖いイメージもあったし、実際現地調査に来た時も反論すれば恐ろしい事になりそうだ!←偏見
と思っていた。
しかし毎度熱心に現場を見る私に気がついたのか棟梁から話しかけてくれる事が多くなった。10時と15時のお茶出しも率先してやる様になった。というのも、唯一その休憩時間でないとお話する事が出来なかったからだ。
休憩時間棟梁は質問をすると何でも答えてくれた。
工期が終わりに近づく度、私は何だか残念な気持ちになった。
もう会う事は出来ないのか、、見る事は出来ないのか、、
流石にペーペーで、非力な女子が大工さんの力になれるとは思っていなかったし、お門違いと思われてもしょうがないと思っていたので、何も言えず工期の終了日になってしまった。
工事的にはまだクロス屋さんとかは入るけど大工仕事は今日で最期だった。
両親はささやかながら棟梁に対して焼き肉を振る舞った。笑顔でお酒を注ぎながら。
その反面私は「明日からもう姿を見れないのか、、」というガッカリというか切ない思いでいっぱいでなかなかテーブルに広げてある焼き肉に手をつける事が出来なかった。
目の前に嬉しそうな両親、両親の前に棟梁と横に私。
私はたいして面白くもないので左手で烏龍茶を掴みチビチビ飲んでいた。
するとテーブルの下に置いてあった私の右手を棟梁の左手がぎゅっ、と力強く掴む。一瞬振り払おうとしたが思った以上に固く握られた手は振り払えなかった。
棟梁の顔を見た。
真っ直ぐ私の両親に標準を合わせて何事もない様に酒を飲み交わしている。
ドキドキした。困惑した。
恋愛感情?それとも目の前に両親がいるのに!?という背徳感?
不思議な程握られている手をイヤだとは思わなかった。何故だろう?
棟梁はお酒が回ってきたらしく私と繋がった左手がどんどん上がってくる。
流石に両親にこれを見られてはならない!
棟梁はどういう心境なのだろうか?いくら酔っててもこれはヤバい!
私はお酒が飲めないし、右手が使えないので懸命に残された左手でテーブルの上に出そうな握られた右手を押さえる事しか出来なかった。
最初のコメントを投稿しよう!