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魔術師サイラスと過ごす日々の終わりは、突然訪れた。
「ミラー……!! 逝かないでくれ、俺を置いていかないでくれ……!!」
行使された魔術の失敗。
最硬度の宝石を作り出す秘法に挑んでいたサイラスであったが、生成された得体の知れない物質は、術師であるサイラスのいうことをまったく聞かず。
生まれ落ちた桶の中から跳ねて飛び出し、薬品のビンや実験器具の並んだ机の上を縦横無尽に跳ね回り、そのたびにガチャンガチャンと破滅的な音を響かせ。
ズバン、と壁を突き破り穴を開け。
ガスン、と天井まで跳ね上がって素通しの天窓を作り。
……ヒューンと勢いをつけて落下してきて最後に壁掛けの鏡であった私の体に体当たりしてきて動きを止めた。
鏡としてはごく普通の強度しか持たなかった私は、もちろんその一撃に耐えられたはずもなく。
砕け散って、床に落ちた。
「逝かないでくれ……。この賢者の石で君に命を吹き込もうとしていたのに」
さめざめと泣くサイラスの姿を欠片となった自分に映しながら、(いい男が……台無しですよ?)と思ったところで、私は意識を失った。
* * *
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