遺された者

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遺された者

ガバッ。 俺はいきなり目を覚ました。いつもは寝起きが悪く、アラームを3つかけないと起きないのに。 …何か嫌な予感がする。 俺はふと窓の外を見た時、アイツの顔が思い浮かんだ。 「裕…也…?」 裕也に何かあったのか? 俺はいてもたってもいられなくなり、上着を羽織って外に出た。 俺は徐にスマホを開きSNSを見た。 SNSのトレンドにスズキユウヤの名前が載っていた。 そこをタップすると、とある投稿を見た。 ——えっ、やばい。うちの住んでるマンションで飛び降りがあったんだけど ——周りがスズキユウヤって言ってるけど、聞き間違えだよね? ——スズキユウヤが自殺?そんな…嘘でしょ? いくつかの投稿と共に写真もあった。 見覚えのある靴が写っていた。 あの靴…裕也がバイト代で買ったブランドの靴。俺はそんなことよりもっと音楽に使えと怒った、あの靴。 俺の脚はそのマンションは向かっていた。 電車に乗り、そのマンションがあるであろう駅にたどり着いた。 周りをキョロキョロと見回していると、誰かから視線を感じた。 その視線を辿るように探すと、ある男と目が合った。 金髪で、高身長、耳や唇にピアスが開いており、首元のタトゥーが見えた。いかにもあちら側の人間だった。 男も俺に気付きこちらに近づいてきた。 やばい、気づかれた。本能が関わってはいけないと言う。 男はさらに俺に近づいてきた。もう逃げられない。 「どうかされましたか…?」 「へ…?」 間抜けな声が思わず漏れた。言いがかりをつけられ、脅されるかと思ったからだ。 「…すみません、いきなり怖いですよね。でもあなたがとても慌てているように見えたので、思わず…。」 物腰が丁寧で柔らかい人だった。人は見た目によらないとはこういうことを言うんだな。 「あ、えと、あはは、すみません。ちょっと道に迷っちゃって。」 咄嗟にそう答えた。 「どこに行こうとされているんですか?私、この辺り詳しいのでお教えしますよ。」 男はニコッと笑った。よく見るととても整っている顔だった。 「いいんですか?あの、ここに行きたいんですけど。」 俺はSNSに投稿されている写真を見せた。 「あー…ここですね、わかりました。ご案内します。」 「え?いや、いいですよ。教えてくれれば俺1人で行くんで。」 「口だけで教えるとちょっと分かりにくいんですよね。ここからすぐなので大丈夫ですよ。」 一瞬、男はニヤリと不気味に笑った。俺は若干の違和感を感じた。たしかにここからでも例のタワーマンションは見えるのだが、入り口が全くわからなかった。 「あ、ありがとうございます…。」 俺はこの男の厚意に甘えた。 謎の男と2人で歩いて会話などするはずもなく、ただただ沈黙が流れた。すると、男は俺に話しかけてきた。 「大分慌てていましたが、そのマンションに何か急用でも?」 「えっ、あっ、えーと、そうですね、友人がそのマンションに住んでいるんですよ。ちょっとその友人に用があって…」 「なるほど、そのご友人はどんな人んですか?」 "だった"と言う言葉に引っかかった。男の目がギラリと怪しく光る。この男は何か知っているのか?いや、そんなはずは…だってさっき会ったばかりの人だぞ。  男に違和感を抱きつつも俺は答えた。 「良い奴ですよ。人に頼ってばかりで、だらしなくて、どうしようもない奴だけど、夢を叶えたカッコいい奴です。」 「そうなんですね。」 「まぁ俺はアイツの友人を名乗る資格は無いんですけどね。」 「なぜです?」 「アイツを見捨ててしまったんです。そしたら俺も切り捨てられました。仕方ないんです。俺があの時もっと別のやり方を…あ、すみません、こんな話しちゃって!」 「いえいえ、友達思いの優しい方なんですね。」 「いや、そんなことは…あはは…」 どうもこの男と会話がやりにくい。なぜかこの男は俺のことも裕也のことも知っていて、あえて確認しているように見えたからだ。そんなことはありえないはずだが…。 「そこを曲がればすぐですよ。」 男が急に立ち止まる。あれ、入り口まで案内してくれるんじゃ…まぁここまで案内してくれただけありがたいか。 「え、あ、ありがとうございます。それじゃあ俺は…」 「一つ、お聞きしても良いですか?」 「え?あ、はい…」 なんだ?こっちは急いでいるんだが…まぁ親切にしてもらったし、いいか。 「あなたの夢、叶えてみませんか?」 「夢…?」 「はい。」 男はニコリと笑う。その笑顔は張り付いているようで気持ち悪かった。 「夢、そうですね、例えば"お金持ちになりたい"とか"恋人が欲しい"とか"美しくなりたい"とか…あとは…」 男の顔がぐいっと近づいた 「…"有名になりたい"とか」 男はニヤリと口角を上げた。宗教か何かか? 「…結構です。」 「別に宗教じゃありませんし、お金だって取りません。薬でもありませんよ?一度だけ試してみませんか?ほら…」 男は急にペラペラと話し出した。何言っているんだコイツ。俺にはよくわからなかった。だって… 「…夢は自分で叶えるものです。俺の夢は俺が必ず叶えます。俺は誰にも頼るつもりはありません。道、教えていただきありがとうございます。では。」 俺は男の話を遮り、走ってマンションへ向かった。 そこには、救急車とパトカーが数台が止まっているのが見えた。 後日、裕也が自殺したことをテレビのニュースで知った。
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