結末

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結末

俺は全身の力が抜けてしまった。 もう何も動かすことができないと悟った。 夢原は俺の様子を見て、さっと拘束を外した。 それでも俺はピクリとも動けなかった。 きっと、さっき飲まされた液体のせいだろう。 「うんうん、薬の効きも良さそうですね。それじゃあ裕也さん、立ってください。」 夢原の声と共に俺は意志とは関係なく立ち上がった。 「あ……………う…………」 かろうじで声が漏れた。奴はニヤリと笑った。 「この薬、すごいですよね。うちの部下が調合したんですよ。もうこの身体はあなたのものではありません。さぁ、そのまま、屋上へ行きましょうか。」 足が勝手に動く。 嫌だ嫌だ嫌だ。死にたくない死にたくない。 誰か止めてくれ。 そんな思いなど届くはずも無く、俺の脚はどんどん屋上へ近づいた。 ガチャリ。 夢原は扉を開ける。普段は施錠していて、住民は一切開けることはできないはずなのに。 夢原の足取りは軽く、はしゃいでいるようだった。 タワーマンションの屋上ということもあって、風が轟々と吹いていた。 「いやー、良い天気ですね。そう思いません?あぁ、もう口はきけないか。フフッ。」 初めて見る屋上。そこはだだっ広い何もない空間だった。向こうのフェンスに台のようなものが置かれていた。 「そのまま進んで。」 俺は抗う術がなかった。脚はそのままフェンスの方へ向かった。 奴はその様子を満足げに見つめる。 俺の人生何もなかったな。 こんな終わり方するなんて思いもしなかった。 「あ……………………」 空気のように漏れた声。その時ある事を思い出した。 『裕也!何かヤバいものに手を出してないよな!?いや、手を出していたとしても、俺はお前を裏切ったりしない!だから…!』 必死に俺を止めてくれたのに、俺はなんて返した? 「はぁ、薬なんてヤってないよ。あぁそうだ。鈴木裕也から遺言預かってるよ。『もうお前は必要ない』だってさ。じゃあね。凡人。』 ———もうお前は必要ない この言葉がずっと頭の中を回った。 俺はなんて事を言ってしまったんだ。 あぁ、幸介にもう一度会って謝りたい。 しかし、そんな事はもうできない。 あの時、怪しげな広告をクリックしなければ、 あの時、電話をしなければ、 あの時、夢原命に会わなければ、 あの時、music boxを使わなければ、 あの時、幸介の忠告を聞いておけば。 後悔したってもう遅い。が、頭の中は後悔で溢れかえる。自然と涙がポロポロとこぼれ出した。視界が霞む。 フェンスにたどり着いた。 「台に上がって」 身体が動く。 「フェンスを登って」 フェンスをよじ登り、その外側に立つ。 風が強く吹き付ける。 「飛び降りる前に少し話せるようにしましょう。大声を出したり抵抗しようとしたらそのまま私が蹴って突き落とします。そんな滑稽な事させないでくださいね?」 夢原がニコリと笑い、パチッと指を鳴らした。すると身体は相変わらず動かなかったが、口だけ動かせた。 助けを呼ぶ気力なんてもう無い。 「さぁ、裕也さん、最期に何か言い残すことはありますか?」 夢原は目をキラキラと輝かせた。 「お…、俺は…」 「俺は?」 「…最期にもう一度、幸介に謝りたかったなぁ。」 俺は口から涙と共に最期の思いがポツリと漏れた。 その様子を見た夢原は悪魔のように笑った。 「フフフッ…あはははっ!何を言うかと思ったら予想通りつまらない最期の言葉だ!!!あー、おっかしー!フフッ、あ、そうそう、幸介さんでしたっけ?もうあなたのことなんて忘れていましたよ。だって仕方ないですよねぇ、切り捨てたんですから!彼は他のお友達と夢に向かって努力をしていますよ。あなたと違って自分の力で!最近はSNSで少し有名になったらしいですね。その時、あなたはくだらない玩具を使って1人で気持ち良くなっちゃって!ほんとウケる。ただの凡人以下の屑人間なのに!」 「そん…な……幸介……。」 「なんで泣いているんですか?自分が選んだ道でしょう。よかったですねぇ。生きた証が残せて。」 奴はニヤニヤと笑った。 幸介はいつも努力を惜しまなかったよな。俺と違って。アイツはいつか成功する人間だったんだ。俺ももう少し努力すれば、アイツの隣に立てた未来もあったかもしれないな。 「フフッ、時間切れです。」 再び指をバチっと鳴らすと俺の口は閉ざされた。 あぁ、これから死ぬのか。 死の淵に立つと俺の頭の中で今までの薄っぺらい人生が駆け巡った。 「では、飛び降りてください。」 その瞬間、身体がふわっと宙に浮きそのまま真っ逆さまに地面に向かって落ちた。 ごめんな、幸介。 グチャッ。 —————————————————————————— 「フフッ、これだから面白い。人間は欲にとても弱い。沼に嵌ってしまったら、すぐに底まで堕ちていく。特にあなたのような承認欲求の強い方なら尚更ね。」 私は滑稽な彼の最期を見て思わず笑ってしまった。 プルルルル…プルルルル… 電話が鳴った。スマホの画面を見ると、部下の葵からだった。 「なんです?」 『住民が騒ぎ出しています。早く足がつかないようにその場を離れてください。』 「さすが有名人ですね。もうそこまで騒ぎが広がりましたか。わかりました。連絡ありがとうございます。」 ツー…ツー…ツー… 私は足早に屋上を後にした。 葵に教えてもらったマンションの監視カメラから外れるルートを辿り、裏口から抜け出した。 タワーマンションから最寄りの駅まで着くと、急いでいる様子の男を見かけた。 「おや…?」
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